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 悟がレンジャーになってしばらく経つが、その高い身体能力を目の当たりにするのは、初めてだったからだ。  悟が巴に目を向ける。  巴はハッとなり、思わず視線をそらした。悟はニヤニヤしながら、巴に駆け寄る。 「見た?見た?今の俺。どうだった?どうだった?」 「……どうって、普通じゃない?レンジャーなんだし」  巴は少し顔を赤らめながら、目も合わさずにそう言った。悟の得意げな言い方に、腹が立ったのだ。  巴は速足で歩きだした。 「おい、待てよ」  悟が後を追う。しかし巴は、速度を緩めず歩き続けた。  巴は、昔の雑木林の一件を思い出していた。  悟の導きで、雑木林から抜け出すことができた、あの日のこと。  巴はあの時、素直に悟のことを、「すごい」と言うことができた。  しかし、今は言えない。  悟が風船を取るために、女の子のためにすぐに行動したことを、巴はすごいと思った。  それはレンジャーだからという以前に、人として、単純に偉いと思った。  だけど巴は、その気持ちを悟に言うことはできなかった。すごいと思う反面、何か心の中に苛立つものがあった。
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