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9.春風
立夏は自分の住む新居を借りた。
取り敢えず働かなければとアルバイト先を探し、凪から住民票を送ってもらって物件を決め、そこに自分の荷物、と言ってもほぼ何もないのだが、生活必需品を揃え、ようやく落ち着いた。
アルバイトを探す時には、開智が「男がいる場所はやめろ」「独身の男が普段使いするような店はやめろ」「いや、家で出来るやつにしろ」「というか働くな」と、うるさかった。
新居を探すと言った時はそれ以上に喚いた。なんで俺の家に一緒に住まないんだと怒ってきたが、開智はただの学生で、親に家賃から何から払ってもらってるのに自分が転がり込むのはおかしい。
そんなことは開智が働いて、自分で生活費をすべて賄えるようになってから言ってほしい、と言うと、それには開智も何も言えなかったのか、怒りながらも本屋で『ネットビジネス入門』という本を買ってきて読んでいた。どうやら自分も家から一歩も出ずに立夏といたいようだった。
立夏の新居は開智の家から近かった。
「お前これ……前のウサギ小屋よりひどい……こんなの人間が住む所じゃない……ハムスター小屋って言うんだぞ……」
立夏のアパートのあまりの小ささ、古さに開智は震えていた。
「見ろ……洗濯機が外にあるなんて……」
隣の部屋の玄関先を指さし、また震えている。
「失礼な」
立夏は鍵を開け、中に入った。
開智は嘆きながら立夏の後に着いて行く。
「狭すぎる……前のウサギ小屋の方がマシだ……こんなハムスター小屋……辛すぎる……」
「うるさいな。文句言うなら帰ってよ」
壁が薄いので、極力小声で喋る。
立夏は畳んだ布団の上に、座った。
開智は立夏を睨んだ。
「お前、俺がいないと他の男連れ込むだろ」
立夏はすぐそういう事を言ってくる開智に流石に腹が立ち、近くにあった枕を投げつた。
開智は自分に当たって落ちた枕を拾い、立夏に近づいてまたその枕を投げ返した後、足で蹴ろうとする。
立夏はそれに、枕と蹴りで反撃し続けた。
しょぼい喧嘩だった。
そしてしばらくその攻防を続けた後、お互い少し疲れたのか、休戦し、飲み物を飲んだ。
「なんかちょっと前から思ってたけど、りっちゃん生意気になってきてね?」
開智は、由々しき事態だとでも言いたいのか、真剣な顔で睨む。
「前からちょいちょい口では反撃してきたけど、頭突きを返された時ぐらいから暴力でも返すようになってきてる」
「……それは自分も思ってたけど、開智といると暴力性が身に付いてくるんだよね」
「俺のせいにすんなよ」
「だって開智が凶暴なんだから、こっちも凶暴化するよ」
そんなことはない、俺は暴力的なんかじゃないと開智は言った。
立夏は「一緒にいると、似てくるんだろうね……」と言いながら畳に寝転がり、何かを思い出していた。
「開智と凪ちゃん見てて思ったんだよ。喧嘩の仕方とか、言葉の選び方とか、物事への反応の仕方とか……一緒に育ったからか、そっくりだなって……」
「おい、そんな侮辱はやめろ」
「……で、思ったんだけど、僕はこれから開智とずっと近くにいると、凪ちゃんみたいな性格になっていくんだろうなって……」
開智は目を見開いて叫んだ。
「それだけはやめろっ! 気持ちわりい! 凪化したらお前、山に捨てるからなっ!」
隣の部屋から、ドンッと壁を殴られた。
砂壁の砂が、パラパラ落ちる音がした。
立夏は声をさらに潜めて、口の前で人差し指を立てた。
「開智は声が大きすぎる。地声も。うちの壁薄いんだから迷惑でしょ。大きい声出さないでよ。それくらい出来るでしょ?」
プイッと開智はそっぽを向いた。
立夏は「もう……」と言いながら、そのままうつ伏せになり、開智に背を向け、本を読み始めた。
開智は机の上にあったお茶を取り、動線上にあった立夏の身体を無言で踏みつけ、冷蔵庫にそれを戻しに行った。
立夏は踏まれたショックで唖然として、思わず開智を見た。
開智はシラっとした顔で戻ってくる。
「なんで踏んだの……」
「俺の行く先に転がってたから」
「避けて行けばいいのに、物みたいに踏まないで。失礼すぎる……」
開智は「え? そうなの?」と立夏の近くに行き、しゃがみ込んでその顔を覗き込んだ。
「前にもう一人のりっちゃん踏んだ時、もっと踏んでって興奮してたから、踏まれるの好きなのかと思ってた」
立夏は口を開けたまま、顔をみるみる紅潮させていった。
開智は立夏の顔を更に覗き込み、笑いかける。
「顔やチンコ踏まれて、血が出るほど乳首噛まれて、りっちゃん有り得ないぐらい興奮してたじゃん。ああいうのが好きなの?」
立夏はさらに顔が赤くなり、冷や汗を流しながら、目を開智から逸らす。
「それは、ない……全然、ない……違う……」
開智はそんな立夏をニヤニヤ眺めながら「俺の勘違いだったかな」と笑った。
*
夜、薄暗い部屋の中で、白い裸体がうごめいた。
上半身を伏せさせられ、膝を立てた立夏は、横に座った開智に顔を踏まれながら後穴を指で弄られていた。
「興奮してんじゃねーかよ。ケツから汁垂らしながら悦びやがって」
な、と開智は立夏の顔を見た。
立夏は息を荒くし、唇を噛みながら、目を逸らした。
開智は意地悪く笑い、また指で立夏の裏壁をなぞり始める。
「ここかなー……」
「……っ!」
気持ちのいい所を指で刺激された立夏は、思わず声を上げそうになり、堪えた。
「偉いね、りっちゃん。りっちゃんは俺と違って、近所迷惑にならないよう、大きな声出したりしないもんね」
最悪だ。
仕返しをされている。
開智は指をゆっくりと抜き、背後にまわった。そして立夏の濡れそぼった肉穴に、自分の陰茎を何度も擦り付け、挿れようとしない。
「りっちゃんほんと、最近生意気だもんなー。昔はあんなに優しかったのに……ムカつくから、欲しいんなら自分で挿れてよ」
「嫌だ……挿れて……」
顔を伏せたまま、小さい声で懇願する立夏の尻を叩いた。
立夏の身体がビクッと跳ねる。
「自分でケツ振って挿れろっつってんだろ」
立夏は上半身を起こし、ゆっくり開智を振り向いた。困惑したように眉を下げていたが、やはり興奮していた。
身体を反らして右手を後ろに伸ばし、開智の陰茎を触る。そしてその先端がちゃんと後穴に入るよう、腰をくねらせ、何度も挿入を試みる。
開智の陰茎が立夏の入口でぬめって失敗する度、また腰をくねらせて同じことを繰り返すのだった。
(これはエロいな……顔と、いい角度の乳首と、一生懸命ケツ振ってチンポ探してるのが同時に見れて……)
開智がそんなことを思っている間に、立夏はなんとか自分の中に開智を挿れることに成功したようだった。
ようやく陰茎を根元まで後穴に咥え込んだ立夏は、聞こえないぐらいの小さな吐息を漏らした。
「偉いね、りっちゃん」
開智はそんな立夏の背中に何度もキスをし、片手で腹を抱え、挿入したまま立夏のペニスを握った。
「……っ」
「ご褒美にどっちも気持ちよくしてあげる」
立夏は無言で俯き、ふるふると首を振った。
開智はゆっくりと立夏の肉壁を自分の陰茎で抉り上げながら、同時に、立夏の竿部分をほんの少しだけ指で摘み、裏筋に沿って上下させ続けた。
さっきまで萎んでいた立夏のペニスは、徐々に膨らみ、硬くなっていく。
開智は立夏の腹にまわしていた手で、後ろ髪を掴み、前を向かせた。
正面のガラスに、二人の姿が映っている。
「ほら、こんなことされて、自分がどんな顔してるのかよく見とけよ」
立夏は、奥に開智のものが当たって、前をしごかれ続けるたびに声が出そうになり、それを堪え続けながら、目の前の自分を見た。
その目の奥には確かに、快楽を感じている自分がいた。
両方同時に責められ、立夏は気が狂いそうだった。
何度も首を振るが、開智は辞めてくれない。
開智は掌全体で搾り上げる様に立夏のペニスをしごき始めた。同時に中の気持ちいい部分が、開智の鈴口で何度も刺激される。
もうダメだった。
立夏は振り続けていた首の動きが弱くなって、身体に力が入った。
「イ……っぐ……ッ」
立夏は思わず、声を上げた。
倒れ込み、全身で息をする立夏のペニスからは、白濁液が垂れ流れている。
隣の住人がまたドンッと壁を殴ってきた。
「ほら、大声出すから怒られた」
開智はそう言って立夏を仰向けにさせ、また自身をその肉穴に挿入する。
意識が朦朧として、息を切らしながら、焦点の合っていない目で宙を見る立夏に覆い被さった。
立夏の頬を撫で、近くで顔の隅々までを見る。
「変態なりっちゃんも好きだよ」
開智は満足気にそう言って、立夏の額にキスをし、自分の杭をその意識の薄れた身体に何度も打ち付け、中に吐き出した。
*
朝になり、開智が目を覚ますと、目の前に立夏の後頭部があった。
後ろから手を回すと、立夏は起きていたようで、ゆっくりこっちに寝返りを打った。立夏は恥ずかしいのか、チラッと開智を見て「おはよう」と言うと、すぐ開智の胸元に顔を埋め、自分の表情を隠した。
しかし身体はピッタリとくっついてきていた。
ちょっとしおらしくなっていて、可愛かった。
「この物件、めちゃくちゃいいな……」
顔を上げた立夏は「どういう風の吹き回しだ?」とでも言いたげな表情をしていた。
「生意気になったりっちゃんを躾られる、貴重な物件じゃん……最高」
立夏は「もうこの家で絶対したくない」と言った。
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