生産職の幼馴染みを連れて逃げる話 その一

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生産職の幼馴染みを連れて逃げる話 その一

良くある話、ちょっと田舎で特に裕福でない村や町から冒険者ギルドにやってくる少年少女は多い。 理由は単に出稼ぎや都会に憧れて、何かの修行中、有名人になりたい等々。 現在、ギルドでワイワイと成功報酬で打ち上げをしている五人の少年少女も、名の有る冒険者になって見たことの無い土地に行ってみたい、高ランクの報酬で家族に楽させたいという夢が有った。 「お疲れ様~。いやいや~、ファイヤーバードがあんなにデカイ群れだとは思わなかったけど、何とか無事で良かったな!!」 「本当よね。お陰で火消しに追われて全然活躍できなかったわ!!」 「でも、リリアンの水魔法が有ったお陰で火傷にならずに済んだんだよ?ありがとう。」 大きな剣と盾を脇に置いた剣士の少年がエールを飲み干して、陽気に机を叩いた。 ブドウジュースをチビチビ飲みながら、オレンジの縮れ毛をツインテールにした魔法使いの少女が不満げに愚痴った。 今回は、終始ファイヤーバードが放つ炎の後始末と防御に追われて、攻撃なんて全く出来なかったのだ。 それをフォローするように、黒い皮鎧を着た黒髪ののんびりした少年がテーブルのツマミを少女の前に寄せた。 「やだわ、もうっ♪タクミのくれたロッドがスゴく使いやすかったのよ!!回復アイテムも!!」 「えぇ~、そ、そうかな?へへへ……♪」 一際小柄な黒髪の少年の背をぺちんと軽く叩いて、満更でも無さそうなリリアン。 タクミと呼ばれた少年も、自作のロッドを誉められて此方も嬉しそうだった。 「そうだぜ!!俺の剣もアイツらの苦手属性のにしてたし、防具も思いきって揃えて良かったな!!」 「うんうん、トビー君の鎧は動きの確認してなかったから、大丈夫で良かった。」 今回のファイヤーバード討伐は、季節外れの集団が発見されたというので受けたものだった。 その為、タクミが防具と武器は急遽メンテナンスしたものの、耐久性に不安が有ったのだ。 「しかし、ステファンの奴……さっきギルド長に呼ばれて中々帰ってこないな?」 「あぁ~ほっときなよ。どうせ何かドジやらかしたんでしょ。おっちょこちょいなんだから。」 「おいおい、ステファンだって何度も怒られるような事しないだろ?メリッサは弟にちょっと厳しくないか?」 「そういうマイクは甘やかし過ぎ!!アイツってば見てないと飛んでもないドジッコなんだからね!!」 三人がキャッキャウフフと成功を祝ってるのを横目で見ながら、クレリックのマイクは受付で報告を済ませた後、呼び出されたリーダーのステファンを心配していた。 双子の姉であるのメリッサは、案外抜けてる弟にいつもの事と塩対応だった。 ここのところ大きな失敗もしてないし、ギルドに迷惑も掛けてないので、ちょっと妬み半分の言い掛かりでも付けられたのだろうと、紫の髪の美女は塩の利いたハムを口に放り込むとグビグビとエールをイッキ飲みした。 「メリッサってそんなにグビグビと飲んでいるのに、全然酔わないよね~?良いなぁ。」 「タクミこそ、私たちより歳上なのにお酒苦手で、童顔って羨ましいわよ!?」 一応、タクミは18歳、メリッサは16歳。 成人は15歳なので、早い者ならその前からグビグビと飲んでいる奴も居るくらいだ。 「エヘヘ……酸っぱくて酔っちゃうからな。あんまり美味しくないし、果物のジュースなら好きなんだけどな~。」 「ん~まあ、そうよね。タクミは職業柄指先に集中するもの、酔ってちゃ仕事にならないって思うのかしら?」 どうだろうね~、と鳥手羽をモグモグ頬張っているタクミは、マイクが言うように少し遅すぎではとチラリとギルドの事務所を見ていた。 すると、人混みの向こうでよくは見えなかった事務所が慌ただしくなってきた。 「ふっざけんなぁああ!!!!んな事やってられっかぁああ!!」 「待ちなさい!!君達にとっても良い話なんだよ!!?何故戦闘も出来ないあの男に拘るんだ!?」 バンッとドアを破壊する勢いで飛び出してきたのは、メリッサとそっくりなツンツンヘアの少年だった。
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