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「冗談じゃねぇ!!この話は無しだ!!俺達がガキだからってふざけた事抜かすな、ハゲ!!」
確かにデップリ太ったギルド長はハゲで真ん丸な油饅頭のような男だったが、いつもよりも脂汗が吹き出していてますますギトギトだった。
「ふざけているのはどっちだ!!いつも足手まといを連れているせいで、上位ランクのクエストが受けられないのだろうが!!こっちが気を利かせてやったというのに!!この恩知らずめ!!」
「大きな御世話だ!!!!!業つくジジイ!!」
顔を真っ赤にしてブルブルと怒りで贅肉を震わせるギルド長に捨て台詞を吐いたステファンが、野次馬を掻き分けて此方にやってきた。
後ろで降格だー罰金だーいやいや除名して追放だー、と騒いでるがなり声が聞こえたが、当のステファンはフンッと鼻を鳴らして椅子に乱暴に腰掛けた。
やがて、ギルド長は職員に宥められて奥に引っ込んでいったが、なんとも気まずい空気がホールに流れていた。
「ちょ、ちょっとぉ。ステファン、何でギルド長と喧嘩してんのよ?」
「そうよ、アンタまた変なことしたんじゃないでしょうね?」
リリアンとメリッサがステファンの襟首掴んで詰問すると、やがてブスッとした表情で何事かをモゴモゴと言った。
「……て………たんだよ。」ボソッ
「何!?グジグジ言ってないでシャキッと喋んなさい!!」
「だから!!タクミをパーティーから外して、ギルドの用意した強化メンバー入れろって言ったんだよ!!」
ステファンはマイクの持ってたジョッキを奪うと、ぐいーっとイッキ飲みして(姉弟そっくりだった)バンッとテーブルに叩き付けると、やけくそのように大声で叫んだ。
「「「「ハァアアア!!?」」」」
「へぇ~そりゃまた急だね?」
あれまぁ、とのほほんと返したのは当の本人のタクミだけだった。
残りの四人は、みるみる内にステファンと同じような表情になった。
「タクミを、外す、ですってぇ!!?じゃあ、私達の中に良く分からない赤の他人入れろって事!?」
「冗談じゃねぇ!!タクミが居ないと道中のメンテナンスもアイテムの運搬も出来ねぇじゃん!!?」
「私の魔法だって、タクミに調整してもらったロッドじゃないと嫌よ!!どこかの誰かが勝手に弄った武器なんて嫌!!」
「そうだよ、タクミが細かい調整や現地調達して支えてくれてるから、ここまでの冒険者になったんだぞ?」
そもそもが村を出て出稼ぎするとなった時に、冒険者になってアチコチ行ってみたいと言い出したのはタクミだった。
モノづくりに特化したタクミの職業では、未知の素材に出会うことも出来ない。
戦闘スキルはソコソコにしか習得できないが、生産と素材集めに関してはエキスパートなのが、タクミの天職【マルチクリエーター】なのだ。
武具を作り、アイテムを作り、果ては薬品までも手作りできるタクミは、希少な素材で最高級の伝説の武具を再現したいと言っていたのだ。
今も休息日にコツコツと商業ギルドに商品を卸したりしつつ、なんとか村に仕送り出来るのは自分達が護衛して、タクミが採集するという持ちつ持たれつでここまでランクを上げてきたのだ。
それに、地味では有るが自作アイテムで敵を倒すのに十分な貢献をしている。
「よし、逃げるぞ。ギルド長の豚饅頭に強制的に押し込まれる前に隣国に移住だ。」
「マイク!!乗ったぜ、その話!!みんなも良いよな?」
「えっ?でも、村から遠くなるよ?俺はここで雑貨屋してても……」
「何言ってんのさ!!タクミは伝説の武具を再現したいっつー夢が有るんでしょ!?」
「そうよ、私も一緒に色んな所に行ってみたいもん。ね?良い機会だよ?」
「そうと決まれば、すぐに出発だ~!!世話になった奴等には後で手紙贈れば良いだろ?」
ちょっぴり酔ってる事もあり、ステファン一行はタクミの背中を押してワイワイと楽しそうにギルドから出ていってしまった。
荷物はいつもタクミのストレージに入っており、いざとなればタクミお手製の『伝承ポッポちゃん』というお手紙配達用アイテムで一方的だが連絡は行える。
その夜、最終便に滑り込んだ若いパーティーが、とある町から未知なる世界に旅立った。
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