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マリアは観念したのか手を離し身体の力を抜いた。 頼もしかった彼女のそんな様相に少しばかり心が痛む。 だからといって、制止を受け入れるわけにはいかず、城へできるだけ早く戻らなければならない。
この島に流れ着いたと思われる船では、いくら距離が近くとも簡単に帰れるはずがなかった。
そしてどうやらアレンに気絶させられこの島へ辿り着くまでそれ程時間が経っていないことから、あの船でここへ来たわけではないとランドは思っていた。
「島の中央に動力付きのボートがあります」
「それは流石に予想外だな。 いや、そうか、国庫を・・・」
「いえ、私のポケットマネーです」
「そ、そうなのか? メイドって案外お金持ちなんだね」
外周から入れる入り江の奥に隠していたらしい。 そのボートでまずランドを運び、偽装のために漂着していた船に乗せ換えたという。 それを使い急いで国へと戻ることにした。
確かにマリアの言う通り、最新式のボートは速く一時間もしないうちに城が見える場所まで辿り着いた。 接岸し今度は馬車を雇い移動すれば、城下町はやはり騒動が起きているのか慌ただしかった。
「行くよ、マリア!」
「はい!」
ランドからしたら自分の家である城への最適な道は知り尽くしている。 子供の時、城を抜け出し遊んでいたことも役に立っていた。 マリアの手を引き一緒に城へと駆ける。
ランドとマリアが城の扉まで着いた時、丁度アレンは切られ大きな傷を負っていた。
「ッ、アレン!!」
「・・・ラン、ド・・・?」
―――僕の前でアレンを切るなんて!
―――なんてことを・・・ッ!
悔しさのあまり強く手を握ると掌に爪が食い込んでいく。
「ランド王子、申し訳・・・」
「そういう話は後だ!」
マリアをその場で待機させ、ランドだけアレンの前へと向かう。 ランドが着ていた服を着ているためすぐにアレンだと分かった。
「ランド王子が二人だと!?」
「一体どういうことだ・・・?」
「どっちが本物だ!」
対峙する兵士と国民がざわめいている。
「今は緊急事態なんだ! どいてくれ!!」
国民と兵士の合間を縫うように進みながらアレンのもとまで辿り着く。 周りの声なんて耳に入ってこなかった。
「アレン!」
横たわっているアレンの上半身を支えて起こした。 それだけで手が血で真っ赤に染まる。
「ランド・・・」
「馬鹿野郎ッ! どうしてこんなことをしたんだ!」
その問いにアレンは小さく笑って言った。
「・・・ランドは僕を守ってくれていた。 だから今度は、僕が守る番」
「・・・ッ! そんな、だからって・・・!」
気付けばマリアも賊を取り押さえていた。
「申し訳ありません! 万全を期するため、アレン様の策に乗ってしまいました」
「マリアが謝る必要はない! すぐにアレンを医者に・・・」
ランドはここでアレンの顔を見て驚くことになる。 アレンは自分そっくりに顔を整形していたのだ。
「・・・え、僕? ・・・アレンだよな?」
アレンは小さく頷く。
「アレンはここまでして・・・」
「・・・あの時、あんなに酷いことを言ったけど本心では嬉しかったんだ。 身分の違いを気にせず声をかけてくれたことも、凄く嬉しかった・・・」
「・・・もう何も言うな」
「ランドが積極的に身分の差をなくそうとしているのも知っていた。 ・・・まぁ、絶対に無理だと思っていたけどね」
そう言ってアレンは力なく笑う。
「もう喋るな! 傷が開く」
アレンの呼吸は荒く、このままでは出血多量で死んでしまうのは簡単に予想できた。
「マリア! 早く医者を」
マリアはランドの言葉より早く行動を起こしていたのだが、騒動の最中とあって動きにくそうだ。
「だけど全部バレちゃったのかぁ・・・。 ランドには何も知らないまま平穏に生きてもらいたかったのに・・・」
「そんな世界で僕の幸せがあるわけない! 平穏に生きてほしいならもっと別の選択肢があったはずだ!!」
アレンはゆっくりと首を横に振った。
「・・・ランドが生きていることだけが僕の幸せなんだ」
「ッ・・・」
アレンの目がゆっくりと閉じられていく。
「まだ逝くな! アレン!! 剣だって交えていないだろ! 目を開けるんだ、アレン! おい!!」
このままでは保たないと思い、ランドはアレンを担ぎ医務室へと運ぶことにした。 当然、それを阻むように賊と化した国民が立ちはだかる。
「退いてくれ! 何か言いたいことがあるなら、その後に聞く!!」
ランドの迫力に気圧されたのか、彼らは少しずつ道を開けた。 もしかしたらリーダー格がマリアに簡単に捕らえられたのも影響していたのかもしれない。
彼女の護衛もあり不意を突いてくるような輩もいなかった。 取り残された兵士たちと国民はどうしたらいいのか分からず、主役のいなくなった門の前で立ち呆けていた。
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