17人が本棚に入れています
本棚に追加
明らかな無人島で道らしい道はないため、中央への道のりは外周を回るより困難だ。 マリアがどうしてもというため先導してもらい、道を作りながら進んでいく。
「・・・なるほど。 そのようなことがあったのですね。 だからアレン様を見ていてほしいと」
「そう。 だから頼んだ」
「確かに学校へ通い始めてから、ランド王子の様子がおかしいとは思っていましたが・・・」
「僕に気を遣って何も言わないでくれていたんだよね。 ありがとう」
礼を言うとマリアは申し訳なさそうに首を横に振った。 その時、二人の視界に妙なものが飛び込んだ。 無人島とばかり思っていたのだが、一軒の小屋が建っている。
苔が生え、弦が絡み付き、という感じではあるが明らかな人工物だ。
「人がいたのかな?」
「そのようですね。 管理されている島ではないと思うのですが・・・」
「もしかしたら人の往来があるのかもしれない。 それまでは何とか生き延びよう」
「はい。 何か使えそうなものを借りられないか見させてもらいましょう」
小屋は整備されているとは言えなかったが、小道具類があり必要になりそうなものが簡単に揃いそうだった。 寝床の確保もこれで容易く叶った。
「これだけあれば生活はできそうですね」
「あぁ。 勝手に借りるのは悪いが貸してもらおう。 持ち主が来たら城へ招待して、お金を払えばいいと思う」
「そうですね。 その折にはそのようにはからいます」
―――僕たちには国へ戻る手段がない。
―――だから誰かが来てくれるまで何とかして生き延びないと。
―――・・・アレンと分かり合えない状態で、このまま終わりたくなんてないから。
再び小屋の中を見て回る。 食べ物の類だけは乾燥し過ぎた乾物が少しと心もとなかった。
「いつ人が来るのか分からない状態でこれはマズいな」
「明るいうちに私が何か集めてきましょうか?」
「いや、僕も行く」
「でもそれは・・・」
当然のように引き止められた。 そんなマリアに言う。
「思っていたことがあるんだ。 こんな状況下で主従関係を続けるのはおかしいと思う」
「・・・」
そう言うと気まずそうにマリアは視線をそらす。
「一人の人間と一人の人間が協力し合わないと共倒れになるぞ」
「そうですが、ランド王子・・・」
「そのランド王子っていうのも今は止めよう。 僕とマリアは小さい頃から共に育った幼馴染じゃないか」
「それを今言いますか?」
気恥ずかしそうにマリアは小さく笑った。
「誰の耳目もないこんな場所でへりくだる必要はないよ」
「ありがとうございます。 ・・・ですが、そうは言いましても私にはメイドとしての務めが」
マリアは何としてでも自分の務めを守ろうとした。 それを見兼ねて最終手段に出る。
「じゃあ今この島での最後の命令。 マリア、君と僕の立場が対等であるように振る舞うことを命ず!」
「ッ・・・」
断固として折れないマリアだったが命令と聞いて観念したようだ。
「・・・かしこまりました」
「そうじゃなくて?」
「・・・分かったよ、ランド」
「うん」
満足気にランドは微笑んだ。 もう一度小屋の中を探索すると、食べ物だけでなく他にも必要なものがあることに気付いた。
「僕が薪を集めてくるから、マリアは食べ物をお願い」
「危ないことはしないでね」
「・・・ッ」
ランドは主従関係でないマリアの言葉に少しドキリとしてしまった。
「・・・うん。 ありがとう」
心臓が鳴り止まないままランドは小屋を後にした。
―――・・・何なんだろうな、今の感覚。
初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。
最初のコメントを投稿しよう!