ドキドキな帰り道

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ドキドキな帰り道

「では、お言葉に甘えて……よろしくお願いします」 「佐伯(さえき)さんって、いつも礼儀正しいよね。同期なんだから、もっと砕けた話し方でいいよ」 「すみません。わかってはいるんですけど、うまく、話せないっていうか……単にコミュ障なだけです」 「まあ、丁寧で好感持てるんだけどね。でも……俺に対してはいらないって言うか、やめてくれると嬉しいかも」  ああ、私の話し方は、やっぱり他人(ひと)を不愉快にさせていたのか……穴があったら入りたい気分になって、私は小さく頷いた。 「すみません。ついつい緊張しちゃって……そうですよね。堅苦しくて、話づらいですよね」 「いや、話づらい事は……あるか……」 「ああ、やっぱり……」  私はがっくりと下を向いた。 「とりあえず、駅まで歩き始めようか」 「……はい」  真島君は傘を広げて外に出ると、私に手招きをしてくれた。  カチコチになりながら、私は真島君の横、10センチくらい離れたところに並ぶ。  すると、真島君が、ググっと私に寄ってきた。  背の高い真島君の肩が、私の目線の直ぐ横に来る。 「そんなに離れていたら濡れちゃうよ。傘折り畳みだから小さいし」  そう言いながら、真島君はひょいと傘を傾けて、私の肩を覆うように差し掛けてくれた。  こういうところが、本当に優しくてスマートなんだよね。  だから、女の子がみんなキュンキュンしているんだと思う。  私だってそうだもん。  こんなことされたら、キュンってきちゃうよ。  しばらく黙ってそのまま歩いていた。  雨が傘に当たって、ザーザーと音が響く。  真っすぐに降る雨だが、やはり二人で入るには傘が小さい。  真島君の反対側の肩が、みるみる水を吸っていく。  私は申し訳なくなって、傘の柄を、少し向こうに押した。  気づいた真島君が、すかさず戻す。  私がもう一度そっと押すと、真島君がまた戻す。  すると、真島君がおかしそうな顔になって、 「佐伯さん、大丈夫だよ。俺は」 「いえ、でも、真島君の肩濡れてしまっているので」 「そんなに気になる?」 「はい、申し訳なくて」 「じゃあ、こうしたら、大丈夫」  真島君が、急にグッと私の肩に手をかけて抱き寄せてきた。  真島君の胸に半分抱かれるような格好になって、びくっとした。 『え?』本日五度目の……でも今回は、心の中だけで。  ドキドキが止まらない  これって、どういう…… 「ね。こうしたら、二人とも肩が傘の中に入ったよ」  いや、そのとおり。  おっしゃる通りなのですが、これって、周りから見たらどう見えるのかしら?  機械のようにぎこちない動きになってしまった私を見て、真島君はまた笑った。 「力抜いて。そんなに力入れていたら、今度は前へ進めなくなっちゃうよ」 「た、確かに」 「敬語じゃない話し方の練習しようか」 「あ、はい。真島君がその方がよろしいのでしたら、頑張ります」 「いや、それがもうだめじゃん」 「あ、すみま……ごめん」 「そうそう、その調子」
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