初デート

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初デート

「今度の連休、デートしよう!」  真島君からのLine電話。動画付き。 「どこ行きたい?」 「私はどこでも大丈夫で……」    慌てて丁寧な言葉を飲み込む私を、画面向こうの真島君が笑いながら見ている。 「じゃあ、鎌倉行こう。ついでに海も見に行こう」  十月の三連休の最初の日。  私達は横須賀線に乗って、鎌倉駅へ来ていた。    私にとっては人生初のデート  初デートが、真島君で良かった。  白の綿セーターに黒ジーンズ、ラフだけれどおしゃれな真島君。  私は思い切って、髪の毛を降ろしてストレートにしてみた。  服は一晩中悩んだけれど、無難に白いセーターに黒のワイドパンツ。  あれ? ペアルックっぽい!  真島君は嬉しそうに顔をほころばすと、私の手を取った。 「一緒だね。髪型もこのほうがいいな。かわいい」    気づいて、言葉にしてくれるのって  すっごく嬉しい。  鎌倉駅から八幡宮をお参りして、小町通りでお昼を食べたり、デザートを食べたり。  歩いて食べているだけでも、二人でいるとこんなに嬉しくて楽しいことなんだな。  何気ない一つ一つの事が、特別に見える。  二人で顔を見合わせて笑う。  こんな幸せ、初めて。  鎌倉駅から江ノ電に乗って、七里ヶ浜駅で下車。  徒歩5分ほどで、一面に広がる海に出た。  十月にしては、穏やかで汗ばむくらいの暑さ。  海風が心地よく感じられる。  二人で浜まで降りて、小さな堤防のコンクリに並んで腰を下ろした。  サーフィンの人以外、人はまばら。  輝く海を二人じめしているみたい。  とりとめもない会話を続ける。    今までのこと  さっき食べた抹茶ティラミスのこと  目の前の海のこと  好きな物、好きなこと  肩の力を抜いて、自然に話せた。  緊張しないで話せるって、こんなに楽しいことだったんだ。  何を話しても、楽しそうに聞いてくれる人がいるだけで、こんなに幸せになれるなんて知らなかった。  初めて饒舌に話す自分のことを、驚きながら見つめる自分がいる。  そんな私を見守ってくれる真島君の優しい眼差し。  真島君、大好きだよ。  まだ心の中でしか言えないけど……  海風に煽られた髪の毛を押さえようと手を伸ばしかけたら、真島君の指の方が先に髪先に触れた。  指の中で持て遊びながら、 「サラサラだね」 「あ、ありがとう」    その指をそのまま上に動かして、おもむろに私の眼鏡に手をかけた。  ゆっくりと静かに、外す。 「やっぱり……目が綺麗だ」  慌てて目を伏せた。  覗き込む真島君の瞳の方が、ずっと綺麗だよ。 「コンタクトにしないの?」 「高校の時はコンタクトしていたんだけど、ドライアイで辛くて、最近は眼鏡にしていた······の」 「そっか。じゃあ、真理ちゃんの素顔が見られるのは、彼氏の特権ってことだね」  真島君が嬉しそうな、満足そうな笑顔になる。  そんなこと言われたら、嬉しすぎるよ。  眼鏡になって良かったとまで思っちゃう。  真島君の細い指が、今度は私の顎にかかった。  私、結構目が悪いんだけど、流石にこの距離だと真島君の綺麗な顔が良く見える。  恥ずかしくて目をそらしたいのに、近すぎてそらせない。 「瞬って呼んでよ」  甘い声で真島君が言う。 「……瞬君」 「ダ~メ。瞬って呼んで」  更に甘い声で言う。  ああ、真島君の声って、テノールの柔らかい声だったんだ。  ドキドキで頭がふわふわしてくる。 「真理」  あ、呼び捨て! 「瞬……」  私の声は途中で遮られた。  瞬の温もりが唇に伝わる。  温かい…… 「真理、もう一度呼んで」 「……瞬」  そしてまた、唇を奪われた。  愛してるよ……  塞がれた唇に、そう囁く吐息が伝わってきた。             完
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