妹の苦悩

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妹の苦悩

 のほほんと生きていると思われてる私にだって悩みくらいある。  人間だもの。誰しも悩んだりするよね。  これは、完璧な兄を持つ妹の、ちょっとした苦悩である。  私の兄は完璧だ。勉強もスポーツも性格も。私はそんな兄の背中を見て育ってきた。妹あるあるだけど、兄のやることに影響を受けるのが妹だ。  兄がハマったものは、全てその影響を受けて妹の私もハマる。兄がヒーローものにハマれば私もハマる。兄が電車好きなら、私も興味を持つ。  小学生の時、兄がバスケ部に入った。私も後に続いてバスケ部に入った。中学生の時は兄がソフトテニス部に入った。私もソフトテニス部に入った。決して自分の意志なく入ったわけではない。兄の話や試合を観ていると、いいなと思ってしまう。そのスポーツを魅力的に感じてしまう。言っておくがこれは、マネではない。しかし、思い返せば兄の敷いてくれたレールの上を、私は安全に追いかけていただけのような気がする。  私と兄は3つ離れているので、中学では兄と入れ替わりに私が中学に入学した。兄は、中学ではちょっとした有名人だった。高校入試の時、大抵みんなは私立の滑り止めを受けて、公立に挑むところを、兄は私立の滑り止めを受けずに公立を受けた、単願入試をしたからだ。少しレベルを落として挑んだものの、落ちればどうなっていたか。母の不安は兄の不安より大きかっただろう。少しレベルを落としたとはいえ、兄は勉強ができたから、私にとってはレベルの高い進学校だった。  私が中学校に入学して、最初に点呼をとって言われたのが、 「あ、あの妹さんね!」  というのが大半。考えすぎかもしれないが、そういう期待の目を向けないでほしい。  中学校で最初のテストの返却時。国語の先生は 「お!お兄ちゃんよりも点数とれてるねぇ。」  と言って答案用紙を渡された。別に要らない情報だけどまぁ、ありがたく聞いておいた。  ソフトテニス部で、顧問の先生から 「あ、妹さんね。フォームが似てるね!」 「あの妹さんなら電車詳しいから、合宿の時は頼りにしてるよ。」  と言われた。  いや、兄が電車好きで道に詳しいからって妹がそうだとは限らないでしょ!普通に方向音痴だし!  と心の中で思った。この頃から、 「あの妹さんね!」  と言われるのにうんざりしてきた気がする。期待の目も、比較の目も、少し嫌になった。かといって兄を嫌いになるとか、そういうことは全くない。外の兄の完璧な姿と違って、家のだらしない、抜けている兄の姿を知っていたからかもしれない。  高校は兄と違うところに行くと決めた。また比較されるのはごめんだったから。でも、私の学力では到底兄の高校には届かなかったので、自動的に違うところにいけた。  高校でも兄は武勇伝を残していた。兄の学力は、ひまわりのようにぐんぐん伸び、かなりレベルの高い大学を目指せた。でも、兄は昔からの夢だった鉄道会社への道を選び、進学校ではかなり珍しい就職という道を選んだ。周りに反対されながらも、自分の夢を叶えるため、未知なる道を切り開いた。  そんな高校に私が通うことになったらと考えると、少し恐ろしい。  その後、兄は就職で地元を離れた。  私は高校で、バイトを始め、初めて自分の道を開拓したような気がした。新しい風はやっぱり新鮮だった。  高校の時、よく両親が兄の話をしていた。兄が定期的に両親に電話をかけていたからかもしれない。高校の時の私はなぜかそれが気に食わなかった。 「さすがお兄ちゃんね!」  という両親に 「そうだね!」  と心から言えなかった。その頃から、勝手に兄に対して嫉妬心を抱くようになったのかもしれない。  いつも、兄、兄、ばっかり。  と楽しそうに喋る両親に対しても、イライラ感を隠せなかった。今思えば、勝手に自分が兄と比較して、勝手にイライラしていただけなのだが。  完璧な兄に私は追いつけない  とどこかで焦っていたこともあったかもしれない。  でも結局は私も兄と同じ道を辿ることになる。ここまで一緒だと自分でも少しおかしくなってしまう。逆に、私がここまで同じ道を歩いていることに、兄がうんざりすることなく受け入れてくれるのが不思議なくらいだ。私も鉄道会社という道を選んだ。ただ、兄とは違う会社だけど。兄は私の就職が決まった時、すごく喜んでくれた。  本当に、兄の影響を受けまくりの妹だ。こんな妹を歓迎してくれる兄。優しい兄だ。  私が高校の頃感じていた勝手な嫉妬心は、もうどこかで消えていた。私は私、兄は兄としっかり割り切れたからかもしれない。  もう就職して、数年が経ったから、もう兄の影響を受けることはないと思っていた。最近、兄が趣味のギターをアプリで配信するようになった。ちなみに、兄が高校生の時にギターを始めて、それに影響されて私も中学生でギターを始めている。  弾き語りのギターをアプリで配信できるなんて知らなかったが、兄がやっているのをきっかけにその存在を知った。  趣味を、ネット上で公開して、同じ趣味の人と繋がれたら楽しいだろうな。  またまた兄に影響された。こうして、私はこのエブリスタを始めた。本当に、どこまで影響されるのか、自分でも興味が湧いてくる。  私の兄は今でも完璧だ。自分に甘い私と違って、ストイックに生活しているようだ。ここまで人生のレールを敷いてくれた兄に、私は何かできることがあるだろうか?それが今の私の小さな悩みである。    
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