引き裂かれた兄弟

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29fa1176-4bd9-4f08-9810-d034816b8efc 14年後、王宮の一番高い所に作られた一室。 そこには、可憐なドレスを身に纏った瑠璃色の瞳の王女がいた。 「なによ、さっきの女」 「さっきの女……と、申しますと?」 この国の大臣であるセバスチャンは首を傾げた。 「税金を下げろとか言ってきた農婦よ。小麦が収穫できないから、食べるのも困っているって。パンが作れないなら、ケーキを食べればいいじゃない!」 「しかしマリアンヌ様。日照り続きで農作物が思うように育たず、農民は頭を抱えています。畑の収穫が滞れば、それはやがて全ての商業に影響してくるのです」 セバスチャンがそう言うと、窓の外から鐘の音が聞こえた。 「そんなこと、知らないわよ。それよりセバスチャン。鐘が鳴ったわ。オヤツのブリオッシュはまだなの!」 マリアンヌが立ち上がった拍子に長い朱銀の髪が揺れる。 「はっ! お言葉ですが、マリアンヌ様。王が亡き今、この国の政治は乱れ、職を無くした国民は貧困に……」 セバスチャンは、下げていた頭を上げた。 「そんなことどうでもいいのよ!」 豪華絢爛に彩られた室内にマリアンヌの怒声が響く。 しばしの沈黙の後、セバスチャンが口を開いた。 「……かしこまりました」 セバスチャンは、手に持っていた小さな硝子拵えの鈴を鳴らした。 チリンチリンと数回、虫の音の様な音が響く。 すると、部屋の扉が小さく開いた。 「入りなさい」 セバスチャンの呼び掛けに応えるように、扉がゆっくりと開く。 そこに立っていたのは、マリアンヌにそっくりな少年だった。 「あ、あなたは……」 マリアンヌは、瑠璃色の瞳を見開いた。 少年は静かに扉を閉めると、マリアンヌの前に立ち、片膝を付いた。 小さく俯いた少年の右手には、銀の皿。 銀の皿には、五つのブリオッシュが几帳面に並べられていた。 「お初に御目にかかれて光栄です。王女マリアンヌ」 少年は、更に深く頭を下げた。 マリアンヌの前に跪く少年は、長く伸びた朱銀の髪を一本に縛り、その髪を左の肩にかけている。 マリアンヌが少年に声を掛けようとしたその時、大臣であるセバスチャンが口を開いた。 「彼の名前はアレン。孤児ですが、頭も良く字の読み書きもできます。ちょうど召使いを募集していたので、こちらに勤めてもらうことになりました」 清潔感のある身なりからは、孤児であることなど想像できない。 衣服で着飾っただけではない、まるで貴族のような気品がアレンにはあった。 セバスチャンはアレンを一瞥すると、更に続けた。 「わかっているとは思うが、くれぐれも王女に失礼のないようにな」 セバスチャンの言葉にアレンは無言でいる。 王女の前ということもあり、セバスチャンは、アレンが顔を上げられないでいるとは容易に想像できた。 「では、あとはよろしく頼んだぞ」 そう言うと、セバスチャンはマリアンヌに小さく一礼し、部屋を後にした。 セバスチャンが退室したのを確認すると、マリアンヌは小さく口を開く。 「ア、アレン……?」 マリアンヌの呼び掛けに、アレンはそっと顔を上げた。 「久しぶりだね。マリアンヌ。キミに会いに来たよ」 アレンの瑠璃色の瞳は、優しくマリアンヌを見つている。 アレンの言葉にマリアンヌの瞳からは大粒の涙が零れた。 「やっぱりアレンなのね! 会いたかった!」 マリアンヌはアレンに飛びついた。 アレンの右手にあったブリオッシュは、銀の皿ごと床に落ち、派手に音を上げる。 「僕も会いたかったよ。マリアンヌ」 アレンはその腕で、強くマリアンヌを抱きしめた。 マリアンヌの瞳からは、とめどなく涙が零れる。 「アレン、ゴメンね。ゴメンね。私のせいで……」 「マリアンヌのせいなんかじゃない。こうして会うことができたじゃないか」 二人は、気の済むまで抱き合った。
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