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それは、満月の夜だった。
国王アザールは、落ち着かない様子で満月を眺めている。
「まだか、まだ産まれぬのか」
アザールが部屋の椅子に腰掛けようとしたその時、慌ただしく部屋の扉が開いた。
「アザール様!」
部屋に飛び込んできたのは、大臣のセバスチャンだった。
「産まれたのか!」
「はい。しかし、問題が」
セバスチャンの表情は暗い。
「なんだ。なにかあったのか!」
アザールがそう言うと、セバスチャンの表情は更に難しくなった。
アザールはセバスチャンに促されるまま、王宮にある分娩室に向かう。
「こっ、これは……」
分娩室でアザールが見たものは、産婆に抱かれた二人の赤ん坊だった。
「い、忌子なのか」
アザールの声には、まるで力がなくなっている。
この国では古来より双子は忌子として、厄の元凶とされていた。
「ソフィーヌ、ソフィーヌはどこだ!」
アザールは分娩室を見渡し、妃であるソフィーヌを探した。
「アザール様、ソフィーヌ様は二人目の赤子を産んで、息を引き取られました。ご遺体は、別室にございます」
鎮痛な面持ちで状況を語るセバスチャン。
アザールは、背中に冷たい物が落ちていく感覚を覚えた。
気がつくとアザールは分娩室から飛び出し、その場にいた召使いにソフィーヌの居場所を聞き出すと、一目散にその部屋へと飛び込んだ。
一瞬、全ての時間が停止したかのような錯覚。
膝から崩れ落ちたアザールの前には、美しきソフィーヌの亡骸があった。
「ソフィーヌ! ソフィーヌ!」
横たわるソフィーヌにすがるようにアザールは泣いた。
死してなお美しいソフィーヌは、その呼び掛けに応えることはい。
アザールは一頻り泣くと、重い足取りで分娩室へと戻った。
アザールの表情にその場にいた全員が凍りつく。
アザールは赤子を抱く産婆の元までいくと、怒鳴りちらした。
「二人目の赤子はどっちだ!」
「こ、国王様!」
あまりの迫力に、産婆は腰から崩れそうになる。
「どっちだと聞いている!」
「こ、こちらでございます」
震える産婆の腕に抱かれていたのは、玉のような男の赤ん坊だった。
「この忌まわしき呪われた子め! 今すぐこの赤子を東の塔へ連れてゆけ! 二度とこの目に触れさせるな!」
アザールの声は雷鳴の如く響いた。
「ははっ!」
産婆は、急いで部屋を後にした。
「セバスチャン!」
「はっ」
「今すぐ鐘を二つ鳴らすのだ。国民に女の赤子が産まれたことを知らせる」
「はっ」
セバスチャンは一礼すると、部屋の外にいた召使いに命令した。
間も無く、女の赤ん坊が産まれたことを知らせる鐘が、二回鳴らされた。
「この赤子をマリアンヌと名付ける」
満月の夜。
皆が歓声を上げる中、二人の赤ん坊は引き裂かれた。
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