青年期 初恋の刃

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青年期 初恋の刃

王宮を進むアレン。 目的の人物は、大広間にいた。 「……ミッシェル」 大広間にいるのは、ミッシェルただ一人だ。 「アレン!」 アレンの呼び声に気付いたミッシェル。 次の瞬間、ミッシェルの表情が変わった。 「マリアンヌ様の記憶が戻ったのね」 ミッシェルの声は穏やかだった。 「マリアンヌに全てを聞いた。嘘だと言ってくれ」 アレンは、ミッシェルの顔を見ることができない。 「そう。記憶が戻ったの。アレン、場所を変えましょうか」 そう言うと、ミッシェルはアレンの横を通り大広間を出た。 アレンもミッシェルに続き大広間を出る。 ミッシェルとアレンは、王宮を出ると孤児院の庭園に立った。 「アレン。あなたは昔、ここで蹲っていたの」 ミッシェルは、庭園の隅に置かれたベンチの前に立った。 すっかりと陽も落ちた庭園には、すでに人影はない。 「僕は孤独だったんだ」 アレンもベンチへと視線を移す。 「まさか、アレンが黄色の国の要人だったなんて、思いもしなかったわ。黄色の国で行われた晩餐会でアレンを見るまでは」 ミッシェルは、アレンの瞳を真っ直ぐに見つめた。 「僕も晩餐会にミッシェルがきたのは驚いた」 アレンもミッシェルを見つめ返す。 「突然、孤児院にやってきたアレンと話しているうちに不思議に思っていたの。孤児にしては教育がいき届いているし、どこか気品もあった。アレン、あなた黄色の国の王子様ね」 ミッシェルの言葉にアレンは、はっとした。 アレンの素性は、誰にも語ったことはない。 「そうだよ」 アレンは、それしか言えなかった。 「そして、黄色の国のアザール王を殺した」 ミッシェルの言葉に黙り込むアレン。 ミッシェルは、更に続けた。 「突然、緑の国の孤児院に現れたアレン。アレンに似た王女。謎の死を遂げた黄色の国のアザール王。アレンが双子の王子様であるならば、全ての辻褄が合うわ」 「ミッシェルの言う通りだよ。アザールは、僕が殺した」 アレンは、顔を上げる。 「私はね。孤児院を出てから、この国のためだけに生かされてきたの。私が緑の国の王宮に勤めだしたのも、この国の国益のため」 ミッシェルは、突然話題を変えた。 「つまり、その国益って……」 「黄色の国を崩壊させること」 そう言うと、ミッシェルは懐から短刀を取り出した。 「……ミッシェル」 アレンは悲しい瞳をミッシェルに見られまいと、フードを深く被った。 「私の任務は、マリアンヌ王女の抹殺。まぁ、王女が心を無くしていたから、抹殺の必要はなくなったのだけど。そして、アレンが王子だと判明した今、あなたも始末しなければいけない。……この緑の国のために」 短刀を構えるミッシェル。 アレンは、身構えた。 「それは、カロイトの命令か?」 「それは言えないわ。私は自分の使命をまっとうするだけ」 「ミッシェル! 僕はきみを殺したくはない! 短刀を下ろして、降伏してくれ!」 アレンの脳裏にミッシェルとの思い出が蘇る。 アレンは、流れ落ちる涙をフードで隠した。 「アレン。あなた勘違いしているわ。私は今まであなたに一切れの情も沸いたことはないの。私は、あなたを大切に思ったことなんて、ただの一度もないわ!」 ミッシェルはそう叫ぶと、アレンに突進してきた。 「ミッシェル! なんて馬鹿なことを!」 アレンは軽くミッシェルを交わすと、素早く短刀を奪った。 鈍い音の後、アレンの手に生温かい血液が伝う。 その場に倒れ込むミッシェルの胸には、短刀が深く刺さっていた。 「ごめんね。アレン……」 仰向けで倒れたミッシェル。 「なんでこんなことを!」 アレンは倒れたミッシェルに寄り添うように泣き崩れた。 「やっぱり……あなたを……殺せないわ。私……嘘は苦手」 虚ろな瞳でにっこりと笑うミッシェル。 「そんなこと、わかってるよ!」 ミッシェルとの思い出を遡る。 ミッシェルは、いつだって優しかった。 ミッシェルの言葉が嘘だということは、アレンが誰よりもわかっている。 「やっぱり……アレンは賢いね」 「僕は、ミッシェルが大好きだった! 歌が上手くて、料理が上手くて、優しいミッシェルが大好きだったのに!」 アレンは、ミッシェルにすがるように泣いた。 まるで、幼い頃のように。 アレンはミッシェルの胸に顔をうずめ、ミッシェルは優しくアレンの頭を撫でた。 「ごめんね……アレン。あなたを……本当の……弟のように想っていた。だけど……私の心の真ん中には……カロイト様がいるの。あの方の命令なら……私は死ねるのよ」 ミッシェルは、アレンの頭を撫でている。 「やっぱり、あいつが、あいつがミッシェルにこんなことを!」 アレンは、拳を握りしめた。 「アレン……じきに兵が……動く。アレンのできること……アレンが思う……正しいことを……しなさい」 アレンの頭を撫でるミッシェルの手に力が消えた。 「ミッシェル!」 アレンは、血で濡れたミッシェルの手を握った。 「ごめんね……アレン……」 そう言うと、ミッシェルは息絶えた。 「うああぁぁぁ! ミッシェル!」 アレンは、大好きだったミッシェルの命を奪い自らの運命を呪った。 その時、背後に複数の気配を感じた。 「そんな大声を出して、みっともない」 振り向いた先に立っていたのは、カロイトだった。
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