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青年期 カロイトの策略
「カロイト! 貴様あぁぁぁっ!」
アレンは素手でカロイトに向かっていった。
「抑えろ」
カロイトは手を上げると、周りにいた憲兵がアレンを抑えた。
アレンは憲兵に両脇を抑えられ、身動きが取れない。
「お前が全て仕組んだのか! マリアンヌのことも、ミッシェルのことも!」
アレンは叫んだ。
「まったく、馬鹿な女だよ。マリアンヌも、そこの女も」
カロイトはすでに息絶えたミッシェルに視線を移した。
カロイトの瞳は冷たい。
「貴様あぁぁぁっ!」
アレンは憲兵を振りほどくと、憲兵の剣を奪い左側の憲兵の喉元に剣を突き立てる。
その勢いのまま剣を振り抜くと、右側にいた憲兵の腕を斬り落とした。
血吹雪とともに両側の憲兵は崩れ落ちた。
アレンの行動に他の憲兵三人も剣を抜く。
すると、一人の憲兵が剣を高く掲げアレンに向かってきた。
びゅんっという風を切る音。
アレンは間一髪でそれを交わすと、一歩踏み出し剣を真一文字に振るう。
アレンの剣は憲兵の鎖帷子を砕くと、憲兵の脇腹へと食い込んだ。
「うああぁぁぁ!」
アレンは思い切り剣を振り抜く。
剣から飛び散った鮮血が、ベンチを濡らした。
アレンは剣を逆手に持ち替えると、もう一人の憲兵の剣へと当てた。
ガキンという金属音の後、剣が反発する。
アレンはその勢いのまま、横に一回転し、剣を真一文字に振り抜く。
その剣は憲兵の首元を捉えると、憲兵の首を遥か高く飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ」
アレンの息が荒い。
血の海と化した孤児院前には、アレンとカロイト、そして憲兵を一人残すだけになった。
瞳を血走らせ、剣を構えるアレン。
カロイトは、身動き一つしない。
「まったく、たいしたものだな」
カロイトは、辺りを見回している。
「なんでマリアンヌを殺そうとした! 夫婦になれば、黄色の国だって手に入れられたじゃないか!」
アレンは叫んだ。
「馬鹿か、きみは。甘っちょろいんだよ。私が求めているのは、征服だ。マリアンヌは邪魔なんだよ」
カロイトは、更に続けた。
「晩餐会でマリアンヌから求婚を受けた時、心が躍ったね。黄色の国と民を手に入れられたら、この私は歴史上最強の支配者になれる。他国との軍事力が均衡している今、黄色の国を吸収した私に敵はいなくなる。笑が止まらなかったよ」
そう言うと、カロイトは高らかに笑った。
「黄色の国を戦争に利用しようとしていたのか!」
「そうだとも。条約はあるが黄色の国を攻めてもよかったのだよ。しかしそんなことをしていては、他国にその隙を突かれかねないからね。平和的に黄色の国を手中にできるのだ。それに越したことはない。海側に面している緑の国は、内陸にある黄色の国を壁にすることによって、不落の城塞と化すのだよ」
「そんなことしたら、黄色の国は戦場になる!」
「それがどうしたというんだ。あんな国、もう滅んでいるのと変わりがないだろう。アザール王は実に賢明な王だったのにな。隣国との不可侵条約を実現させたことにより、黄色の国が攻め落とされることはなかった。だが、黄色の国が今や私の物だ。これが笑わずにいられるかい?」
カロイトは、アレンに笑いかけた。
「マリアンヌは、黄色の国を良くしようとして求婚を申し出たんだ。そのマリアンヌの心を踏みにじる権利がお前にあるのか、カロイト!」
「今、黄色の国民も湧いているじゃないか。まぁ、じきに戦火に飲まれることも知らずにな。マリアンヌもミッシェルも、実に単純な人間だった。ミッシェルに関しては、この国の躍進に一役買えて本望だろう」
「カロイト!」
アレンは堪らずカロイトに斬りかかった。
しかし、それは呆気なく脇にいた憲兵によって阻まれる。
アレンと憲兵の剣が交差する中、カロイトが口を開いた。
「言い忘れていたが、召使い。これより、我が国の軍を黄色の国へと向かわせる。もちろん、マリアンヌを捕えるためだ」
「なんだと!」
「マリアンヌの命により、私の側近が殺された。そして、私は今まさにマリアンヌの召使いによって命の危機に脅かされている。大義名分は立つだろう?」
カロイトの表情は、勝利を確信していた。
「くそっ!」
アレンはそう叫ぶと、マリアンヌを救うためその場を走り去った。
闇と鮮血が支配する孤児院。
カロイトはミッシェルの亡骸を見下ろした。
「なんて馬鹿な女なんだ。まぁ、こちらとしては色々と助かったがな。恨むなら、自らの運命を恨むことだ」
カロイトはそれだけ言うと、その場を後にした。
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