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青年期 怒る民衆
緑の国から驚くべき情報が入り、民衆は酒場に集まっていた。
「たった今、早馬にて緑の国の要人がマリアンヌの使いによって殺害されたとの連絡があったわ! カロイト王子も被害にあわれたとの連絡が入っているわ!」
黄色の国の酒場に赤毛の女の声が響いた。
「メイ! 何を言っているんだ! マリアンヌ王女は心病の床に伏せているはずだ!」
一人の男が叫んだ。
婚姻の儀が滞りなく終了しこの三ヶ月間、マリアンヌが心を患ったという噂は民衆に知れ渡っていた。
「もしかしたら、王女が快復したのかもしれないわ」
メイは顔をしかめる。
「しかし、もしそうだとして、なんで王女がカロイト王子に刺客を送るんだ。なんのメリットがある」
男の言っていることは最もだった。
マリアンヌがカロイトを攻める理由はない。
民衆は困惑していた。
「みんな忘れたの! マリアンヌ王女の悪政を。マリアンヌ王女は、またこの国を壊すつもりに違いないわ!」
メイの口調は強い。
「もう、あんな思いはまっぴらだ! 早馬の情報は確かなんだろ! カロイト様がこの国を統治するようになって、国が元気を取り戻しつつある今、マリアンヌの好きにさせるわけにはいかない!」
違う男は、顔を赤らめた。
「今、この国に緑の国から軍が向かっているわ! 戦に巻き込まれたくない者は、早々に緑の国へ逃げるの! 緑の国の軍の目的は、マリアンヌ王女の首ただ一つだから!」
メイは布袋から、身の背丈ほどもある長剣を取り出した。
「メイ! それはどうしたんだ!」
一人の男が叫んだ。
「緑の国の軍からの支給よ! 北の倉庫にあと百人分あるわ! 私とともに戦う者は剣をとって! 私は兄の仇を討つ!」
こうして、中心となるメイの呼びかけにより黄色の国の軍が結成された。
黄色の国の民衆は武器を持ち、王宮へと向かった。
その数、およそ百人。
王宮前は、松明の火で赤く染まる。
訓練を積まれた王宮の兵士たちは、みな武装し民間軍を迎え撃った。
数は多いものの武器を持ったことのない民間軍は、劣勢を余儀無くされる。
王宮前に幾多の血が流れた。
メイを筆頭に団結した民間軍は、それでも食らいついた。
「諦めないで! この国をマリアンヌの好きにはさせない!」
赤き鎧を纏ったメイは、兵士の重い一撃を左手の盾で受けると、盾の横から長剣を突いた。
「ぐおっ!」
メイの長剣は、兵士を貫いた。
メイは倒した兵士に目もくれず、次の兵士へと走った。
メイは兵士に向かって長剣を振り下ろすも、兵士はその長剣を自らの剣で軽々と弾いた。
メイは体勢を崩すも、なんとか踏みとどまり、長剣を横に振るった。
しかし踏み込みが甘かった。
メイの長剣は、またもや軽々と弾かれる。
メイは堪らずその場に尻もちをついた。
兵士はこの気を逃すまいと、メイに向かって剣を振り下ろす。
「きゃぁっ!」
メイは目を瞑った。
次の瞬間、肉を斬り裂く音がメイの耳に響いた。
恐る恐る目を開くメイ。
なんと、酒場で叫んでいた男が盾になって剣を受けていたのだ。
兵士の剣は、男の背中に深くめり込んでいた。
「メイ、兄貴の仇を討つんだろ。諦めちゃダメだ!」
男はそう言うと、前のめりに倒れた。
「うおぉぉぉっ!」
メイは脇に落ちた長剣を手にすると、それを兵士へと突き立てた。
「ありがとう! あなたの意思を無駄にしない!」
メイは怒濤の如く猛進する。
メイは次々と兵士をなぎ倒した。
しかし、民間軍の劣勢は変わらない。
赤き髪のメイ率いる民間軍は、窮地に追い込まれた。
次々と同志が倒れていく。
メイは立ち止まると、天を仰いだ。
「神よ! 我々を見捨てるつもりか! 今まで苦しんできた我々を無慈悲にも見捨てるつもりなのか!」
天に叫ぶメイの頬に一粒の雨が落ちた。
それは次第に雨粒を増し、地を濡らす。
その時、地鳴りが響いた。
「緑の国の国軍が来たぞ!」
民間軍の一人が叫んだ。
振り返ったメイの瞳に映ったのは、優に五百を越えた騎馬隊だった。
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