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青年期 悪ノ娘
緑の国の国軍は、圧倒的軍事力で瞬く間に黄色の国の兵士を制圧していった。
メイは国軍の後押しを受けて、王宮へと進軍する。
黄色の国の王宮内は、外とは違い実に閑散としていた。
「みんな、逃げ出したようね。まだ外では兵士が抵抗しているのにその兵士を囮にして逃げ出すなんて、なんて卑怯なのかしら」
メイは王宮を進む。
各部屋を回ってみるが、そこには人っ子一人としていなかった。
ひと気のなくなった王宮をひたすら歩くメイと国軍。
残す部屋は、最上階にあるマリアンヌの部屋だけとなった。
メイはゆっくりと扉を開く。
月明かりに照らされた部屋は綺麗な装飾がいたるところに施されており、その部屋の中央にある椅子には、人形のように綺麗にドレスを着飾った王女がいた。
「誰?」
王女は叫んだ。
メイは部屋の中央まで進むと、王女の前で立ち止まった。
「王女マリアンヌ。チェックメイトよ」
メイがそう言うと、緑の国の国軍の兵士が王女を取り押さえた。
「この、無礼者!」
両脇を固められてもなお抵抗する王女。
「私の兄はあなたに殺された。国民を苦しませた報いを受けてもらうわ」
メイは取り乱すこともなく淡々と話すと、剣の切っ先を王女の喉元に当てた。
とうとう王女は観念したらしく、そっと俯くもその表情はうかがい知ることはできない。
「これ以上の戦いは無意ね。早く知らせなきゃ!」
王女を連れたメイは王宮を出ると、いまだ戦いを続ける民衆に叫んだ。
「悪の娘は落ちた! 双方、矛を収めて! これ以上の戦いは無意味よ!」
メイの言葉を合図に民衆は、歓喜に沸いた。
叫ぶ者、石を投げる者、その思いは様々だった。
がっくりと肩を下ろす生き残りの兵士たちは、ガチャガチャと音を立てて次々に地に膝をついた。
「私たちが必要なのはマリアンヌの首一つ! 黄色の国の兵士は武器を捨て降伏しなさい! そうすれば命は取らないから!」
メイの言葉に兵士たちは皆武器を捨て、降伏の意を示す。
こうして、黄色の国の王宮は陥落した。
黄色の国は、夜通し歓喜に沸いた。
皆が肩を抱き合い、王女の陥落に涙を流す。
そんな民衆に王女の処刑が通告された。
王女の処刑は翌日の午後3時。
場所は黄色の国の南の広場。
自らの栄誉を誇る王宮内の牢獄に囚われた悪の娘と呼ばれた王女。
王女は、一晩中涙を流した。
そして、長い夜が明けた。
午前中にも関わらず、民衆は南の広場に押し寄せた。
皆、この国を狂わせた王女の処刑を待ちに待っていたのだ。
王女の涙は止まることは無い。
時刻が午後になると、緑の国の民衆も広場に押し寄せた。
波を打つように沸く民衆。
歓喜の声は高く空に響き、朽ちた王宮を震わせる。
牢獄で枯れることの無い涙を流す王女の嗚咽など、口から漏れたその瞬間に民衆の声に掻き消された。
そして、その時がやってきた。
時刻は、午後2時50分。
沸き立つ民衆が見守る中、ボロ布を纏った王女が断頭台に立った。
かつて栄華を極めた王女の姿はそこには無かった。
顔は一日でやつれているが、瑠璃色の瞳には光がさしている。
緑の国の王子であるカロイトは、断頭台の下でその時を待った。
民衆から野次が飛ぶ中、後ろ手に縛られた王女は兵士に促され断頭台にその華奢な首を乗せた。
処刑の時間が刻一刻と迫る。
民衆の歓声や怒声は、最高潮になった。
王女は、真っ直ぐに前を向いたまま民衆などに見向きもしない。
そして、王宮の時計が午後3時をさした。
国中に鐘が鳴り響く。
王女はその鐘の音を聞くと、小さく呟いた。
「あら、オヤツの時間だわ」
次の瞬間、断頭台の刃が降ろされた。
鋭い音が広場に響き、一瞬その場が静寂に包まれた。
断頭台から転がる王女の首。
「悪の娘が死んだ! 悪の娘が死んだぞ!」
誰かの叫び声をきっかけに民衆から歓喜の声が上がった。
涙を流し沸き返る民衆。
地面に転がり首だけとなった王女の頬に一筋の涙が流れた。
それを見下ろすカロイトは小さく笑みを浮かべている。
こうして、悪の王国は終わりを告げた。
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