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真実の結末へ 王位継承
緑の国でミッシェルを討ったアレンは、黄色の国へと白馬を走らせていた。
カロイトが黄色の国へ軍を送り込むと言っていたことを思い出し、その速度を上げる。
アレンが黄色の国へ到着した時、まだ町は落ち着いていた。
王宮に向かう途中にある酒場が荒れていたようだが、今はそんなことに気を止めて入られない。
「よかった。まだ軍は来ていないようだ」
アレンは馬を降りると、マリアンヌの元へと走った。
マリアンヌは大広間にいた。
血相を変えたアレンにセバスチャンが駆け寄った。
「アレン! 緑の国の女を殺したのか!」
正気を取り戻したマリアンヌから話を聞いたらしく、セバスチャンの表情は深刻だった。
「はい。そのことでお話しが!」
アレンは、玉座に座るマリアンヌに駆け寄ると、経緯を話し出した。
「マリアンヌ! 全てはカロイトが糸を引いていたんだ! ミッシェルを殺されたことを理由に緑の国の軍隊が攻めてくる!」
事の経緯をアレンから聞いたマリアンヌは、血の気が引いた。
「まさか、カロイトが。この国に攻め入るために仕組んだことだったの」
マリアンヌの顔には、絶望が浮かんでいる。
「やはりそうだったのか。しかし、こうなってしまった以上仕方が無い。すぐに支度をして逃げるのです」
セバスチャンは冷静だった。
「そうだ。逃げよう! マリアンヌ!」
アレンはマリアンヌの手を取った。
「ちょっと待ってよ!! 迎え撃てば良いじゃない!!」
その時、一人の兵士が大広間の階段を駆け上がってきた。
「大変です! 武器を持った民衆が、王宮に押し寄せています!」
そう告げた兵士は、肩から血を流している。
「まさか! この国の民衆が!」
アレンは大広間の階段を駆け下りると、正面の扉から外を見た。
そこには松明を持った民衆が押し寄せ、この国の兵士と戦っていたのだ。
アレンは急いで大広間に戻った。
「マリアンヌ! 今すぐ逃げて!」
叫ぶアレン。
「民衆が暴れているの?」
マリアンヌは、まだ状況を飲み込めていないようだ。
「そうだよ。だから逃げるんだ!」
アレンはマリアンヌの手を引こうとした。
「ちょっと待ってよ。こんな暴動、抑えられるでしょう!」
マリアンヌは、アレンに叫ぶ。
「これは暴動なんかじゃない。革命だ!」
「か、革命……」
目を見開くマリアンヌ。
「マリアンヌを早く!」
アレンはセバスチャンに叫んだ。
「アレン! お前も行くんだ! 私がここに残り時間を稼ぐ!」
セバスチャンは、アレンに叫んだ。
「ダメだ。そんなのダメだ! セバスチャンはマリアンヌを連れて逃げて!」
アレンも負けじと叫ぶ。
「馬鹿者! こんな老兵、いつ死んでもいいのだ! 私はお二人が無事ならそれでいいのだ!」
セバスチャンは引かなかった。
セバスチャンは、二人を守るためだけにこの国に仕えてきた。
アレンもそのことをよく知っている。
セバスチャンの意思を変えるには、方法は一つしかなかった。
「マリアンヌ……セバスチャン。簡易式だけど……」
アレンは深く息を吸い込む。
「僕は今ここに王位第一継承者として正式に王位を継承する!」
アレンは叫んだ。
「今この瞬間から、僕が王となる!!」
その瞬間、全ての音が消えた。
目を見開くアリアンヌとセバスチャン。
そして、アレンは更に続けた。
「黄色の国、国王こと、このアレンが命じる! セバスチャンはマリアンヌを連れて今すぐ逃げるんだ!」
まさに王の威厳。
アレンはこの瞬間、王となった。
「これは命令だ!」
アレンはセバスチャンに叫んだ。
「ははっ!」
アレンの前に跪くセバスチャン。
唇を強く噛み締め、その瞳から溢れ出した涙は絨毯を濡らした。
「アレン! そんなのダメ! ダメだよ!」
アレンに抱きつくマリアンヌ。
「……マリアンヌ。これでいいんだよ」
アレンは、そっとマリアンヌを抱きしめた。
「いいわけないじゃない! 一緒に逃げようよ! アレン!」
マリアンヌは、アレンから離れようとしない。
「ちょっといいかな、マリアンヌ」
アレンは優しく話し出した。
「僕は今までマリアンヌのために生きてきた。幼い頃に出会って、そしてこの瞬間も、僕が一番大切なのはマリアンヌなんだ」
アレンの言葉は優しい。
「そんなの私だって同じ! アレンがいなきゃ生きていけない! 小さい頃からずっと、アレンが大好きだったの!」
マリアンヌは、なおもしがみつく。
「僕も大好きだよ。マリアンヌ。きみが世界で一番好きだ」
アレンの瞳から涙が溢れた。
アレンは強く抱きつくマリアンヌを優しく引き離すと、丁寧にシャツのボタンを外す。
ゆっくりと袖を外し、脱いだ上着をマリアンヌに渡した。
「マリアンヌ、僕の服を貸してあげる。これを着て逃げれば、きっと大丈夫だから」
アレンは、優しく笑った。
「ダメだよ! そんなのダメだよ!」
なおも泣きじゃくるマリアンヌ。
「マリアンヌ、僕たちは血を分けた双子なんだ。きっと誰にもわからないさ」
アレンは、もう一度マリアンヌを抱きしめた。
「アレン! アレン!」
マリアンヌの涙は止まらない。
セバスチャンも俯いてはいるが、黒く染みの広がった絨毯が全てを物語っていた。
「セバスチャン。マリアンヌのこと、よろしくお願いします」
アレンはそう言うと、王宮の最上階へ向かい走り出した。
「アレン! 行っちゃやだよ! アレン!」
マリアンヌの涙の叫びを背中で聞くアレン。
「大好きだよ。マリアンヌ」
そして、アレンの姿は階段の奥へと消えた。
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