幼少期 顔の似た2人

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幼少期 顔の似た2人

「キミは、だれ?」 草冠を手にした少年は、再び尋ねた。 「私はマリアンヌ。ここに住んでいるの」 落ち着いた風を装い返事をするが、内心は気もそぞろであった。 マリアンヌは少年に近づくと、草冠を手にした少年をまじまじと見つめた。 少し乱れた朱銀の髪は活発そうな印象を与え、不安そうな瞳は宝石のように瑠璃色の光を反射している。 マリアンヌの前に立つ草冠を手にした少年は、体格から輪郭に至るまでの全てが、鏡を合わせたように瓜二つだったのだ。 「あっ、あの……」 「あなた、名前は?」 「ア、アレン」 少年の声は小さく、どこか怯えているようにも思える。 「こんなところで何をしているの?」 マリアンヌは、アレンと名乗る少年に興味が湧いてきた。 それは、アレンが自分に似ていたからという理由だけではない。 大人に近づくなと言われていた東の塔で自分に似た少年に出会った。 東の塔がとても恐ろしい所だと想像していただけに最も予想から掛け離れた存在に驚きと興味を禁じ得なかった。 王宮の敷地内に自分以外の子供がいることを初めて知ったのだ。 「ここに住んでるんだよ。マリアンヌはどこに住んでいるの?」 「私は王宮に住んでいるのよ」 マリアンヌはツンした表情を浮かばせる。 「え? 王宮に住んでるって……マリアンヌはお姫様なの?」 アレンの表現が変わったことにマリアンヌは気付いた。 それは、妬みではない。 羨望にも似た表情。 「そうよ。私は特別なの」 「へぇ、凄いなぁ。僕なんかとは大違いだ」 アレンは俯いた。 幼いながら王族と自分の身分の違いくらいは理解している。 アレンは更に肩をすぼめるように足元に視線を落とした。 「あなた、暇なら私と遊ばない?」 「え? 僕なんかがお姫様と」 「特別な私がそう言っているの。あなたは私と遊ばなければいけないのよ」 マリアンヌは、アレンに命令する。 悪戯に微笑むマリアンヌは、決して横柄な態度ではない。 いわゆるそれは子供の無邪気な我儘だった。 「あなたの持っているそれ。どうやって作ったの?」 マリアンヌは、アレンの持つ草冠を指差した。 「クローバーで作ったの。簡単だから教えてあげる」 「じゃ、行きましょう」 マリアンヌは、アレンの手を取るとクローバー畑へと向かった。 二人はクローバー畑に座りこむ。 柔らかな風が二人の頬を掠め、太陽に照らされた一面のクローバーが柔らかくそよいだ。 「最後にここをこうやって絡ませて……はい、出来上がり」 アレンは今しがた完成させた草冠をマリアンヌの頭に乗せた。 不思議そうな表情を見せるマリアンヌ。 「クローバーだけで編み込んでいるのに丈夫ね」 「うん。マリアンヌにとても似合ってるよ」 「当たり前じゃない。私は特別ですもの」 二人はクスリと笑った。 同年代の子供と話をしたことがなかったマリアンヌにとって、アレンと過ごした時間は新鮮であった。 それはアレンも同じようで、マリアンヌに強い興味を示した。 二人は草冠を作りながら、お互いのことを語り合った。 アレンは自分の出生については何も語らなかったが、生まれてから今までずっと東の塔で育ったのだと話した。 「じゃあ、あなたは母上の顔を知らないのね」 「うん。ソニアというお世話係の人が母親代わりなんだ」 「お世話係の人に育ててもらったのね。私もお母様の顔を知らないの。私たち似ているわね」 マリアンヌがそう微笑みかけた瞬間、アレンの表現が一瞬だけ曇った。 「同じわけないじゃないか。キミはお姫様だ」 アレンは小さく呟くと、先ほどと変わらない笑顔をマリアンヌに向けた。 マリアンヌはアレンを傷つけようとして言ったわけではなく、共通点を見出して親近感を持ちたかった。 ただそれだけだったのだが、アレンは表情を曇らせた。 マリアンヌは、心に何か引っかかるものを感じた。 二人の間に沈黙が流れるが、その沈黙は鐘の音によって早くも破かれた。 「あっ、オヤツの時間だわ」 マリアンヌはそう言って、脇に置いたバスケットを手に取った。 「ねぇ。一緒にブリオッシュをいただきましょう。私、用意してきたの」 そう言ってマリアンヌがバスケットの中に手を入れようとしたが、アレンがそれを制止した。 「ダメだよマリアンヌ。鐘の音が鳴るとソニアが食べ物を持ってくるんだ。まぁ、僕のは乾燥したパンだけど。だから、もうさよならだよ」 そう言って、アレンは立ち上がった。 マリアンヌの頭に王宮の門で目にした光景が過る。 「そうね。私とお喋りしているところを見られると、アレンは蹴飛ばされちゃうもんね」 そう呟き、マリアンヌも立ち上がる。 そして、二人は次の日も会う約束を交わし、お互いのいるべき場所へと戻った。 王宮に戻ったマリアンヌは、上の空だった。 アレンと過ごした時間を思い返しては、明日が楽しみで心が踊った。 二人はその日から、毎日のように一緒に遊ぶようになった。 一日、たった二時間程度ではあったが、二人は身分も忘れ、その時間を楽しんだ。 そう、あの日がくるまでは……。
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