頭髪、照りつく太陽の帰途

1/10
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ

頭髪、照りつく太陽の帰途

 待ちに待った夏がやって来た。  朝から容赦なく照り付ける太陽をそっと見上げて、眩しさに笑みが零れる。見つめすぎると目がちかちかするよ、といういつかの先生の言葉を思い出して、反らしていた背中をすぐに戻した。  学校に向かうまでの道すがら、スキップしたくなるくらい、私は夏を待っていたのだ。  だって、わくわくする。初めての夏。高校生になってから初めて迎える、トキメキの季節だ。  私にはこの夏、やりたいことがある。  今しかできないこと。だから、急いで坂道を駆けていく。はやる気持ちをあえて抑え込むことはせずに、だだだ、とスニーカーの底で地面を蹴っていく。 「おーい、斗和(とわ)ぁ! お前飛ばしすぎだろ!」  後ろから遠慮のない叫び声が聞こえて、思わず立ち止まった。けれども下り坂。すぐには止まることができなくて、二、三歩もたつく。  そんな私の横を、自転車が一台、通り過ぎていった。風が舞う僅か一瞬、視界に映ったその黒髪に、心臓の端が震える。  坂の終着点でブレーキ音が鳴って、青い自転車に乗っていたその人が振り返った。 「わりーわりー。あっついから、早く行こうぜ」
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!