空の温度

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彼は、そこで息をついた。その息が空に溶けていく様を、私は何も言えずにただ見守っていた。 「1番悲しいのは、ここで全てをリセットしようと考える人です。全部捨てて、まっさらになれると信じて、」 「……っ」 "1番悲しい" その言葉が、私の心に刺さって、抜けなかった。紛れもない、自分のことを指した言葉だった。 「信じて、夕陽に飛び込むんです。或いは、空に足を、踏み出すんです。でも、僕達に翼は生えていないから、僕達は、空を飛ぶことは出来ないから……」 「もう、いいよ。」 その先は、聞きたくなかった。聞いてしまえばもう、自分を誤魔化すことが出来なくなってしまうから。 「地面に堕ちてようやく気づくんです。自分は鳥にはなれないことに。そして、リセットなんて、できるはずが無かったことに。」
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