空の温度

9/19
前へ
/19ページ
次へ
「そんなもの、無い方がいい。」 彼は、いとも簡単に、私の言葉を否定する。 「そんなもの、か。でも、私にとっては何よりも欲しいものなんだ。」 「そんなもの、いらない。」 彼は過去を振り払うかのように繰り返す。 「そうかな、でも……」 「いらない! そんなもの手に入れたところで、苦しみは終わらない。楽になんてなれない。」 煮え切らない私に業を煮やしたのか、彼は激しく捲し立てた。 それは、私に投げられていて、同時にどこか遠くに投げられているかのようだった。 「……そうだね。きっとそうだ。 でも……、そうだ、少し私の話を聞いてくれないか?」 「……はい。」 彼の返答を聞いて、ポツポツと私は話し始めた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加