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『好きな人ができたの。ごめんね?』
つい一昨日聞いたばかりの声が、耳の奥で響いた。
「なにしてくれてんだよ…」
「でも、君も本気じゃなかったでしょ?あの女のこと」
「え…?」
さらっと、とんでもないことを口にすると、澄ました顔してコーヒーを口に運ぶ。
「どういう意味だよ?」
「どういうって、そのままだよ。告白されて、なんとなく流されるままに付き合ってた。…違う?」
「そんなことは…」
ないって言いかけたのに、そいつの黒翡翠の大きな瞳が不意にまっすぐに俺を射抜いて。
言葉に詰まってしまった。
まるで
心の奥底まで見抜かれたみたいな気がして…
「…図星?」
楽しそうに、スッと目が細められる。
好き、だと思ってた。
付き合ってるその時は。
だけど、別れを告げられて、あっさり納得してしまう自分がいて。
俺、本気じゃなかったんだって、気がついた。
「だって、端から見てても君、ちっとも楽しそうじゃなかったし」
「…え…?」
端からって…
「…俺のこと…見てたの…?」
「だって好きだからね。そりゃあ見るでしょうよ」
そう言いながら、そいつは益々笑みを深める。
その言葉の真意が知りたくて瞳の奥を覗き込もうとするけど、そこには愉しげに揺らめく光しか見つけることが出来なくて。
…本気…?
それとも、揶揄ってる…?
いったいどっちなんだろ…?
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