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そのまま深く眠ってしまった樹の身体を綺麗にして、服を着せ。
俺もその横に転がると、腕の中に抱き寄せた。
樹は幸せそうな顔で、小さな寝息を立てている。
やっとこの腕の中に戻ってきたと思ったら
今度は新しい不安が押し寄せてくる
わかってるんだ
陽も冬也も真琴も
今はもういい友人なんだって
だけどなにも覚えていない樹は
屈託ない笑顔を3人に向けて
その度に
胸の奥がズキリと痛む
俺がいない間
樹がどんな笑顔を3人に向けるのか…
それを想像するだけで
嫉妬でおかしくなりそうだ
樹が記憶をなくす前はこんなことなかったのに
なにもなかったあの頃のような顔で笑うから
バカなことだって
そんなの自分が一番わかってるけど…
本当は連れていきたい
それが無理なら
この部屋から出したくない
誰の目にも触れさせたくない
閉じ込めて
俺だけを見ていて欲しいんだ
「…バカだよな、俺…」
思わず苦笑が漏れてしまった。
本番前で
少しナーバスになっているのかもしれない
「…樹、ごめん…」
くだらないことばかり考えてないで、もう寝ようと目を閉じた時。
携帯の着信音が鳴り響いた。
枕元に置いてあるそれを手探りで引き寄せて、耳に押し当てる。
「はい…」
『アヤト!久しぶりだね!』
懐かしい声が、した。
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