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「ところで、話って?」
この間の電話のとき、会って話がしたいと言ったのはテオの方だった。
「それなんだけど…なぁ、アヤト。もう一度、ヨーロッパに来る気はないか?」
思ってもなかった唐突な提案に、一瞬、思考回路が停止した。
「…え?なに、突然」
「実は、私が今担当しているピアニストとの契約が3か月後に切れるんだ。再契約の話もあるんだが…正直に言うと、私はもう一度、アヤトと仕事がしたいと思っている」
それは、素直に嬉しい言葉だった。
「今はナカヤサンが頑張ってくれているが、いくら彼が優秀とはいえ、本業ではない彼には限界があるだろう?私だったら、アヤトをもっと高いところへ連れていってやれるよ」
出来れば、すぐにでも首を縦に振りたかった。
俺だってテオと仕事がしたい。
だけど…。
「…タツキのことだね?」
「ああ。樹が、なんて言うか…」
1人日本に置いて俺だけがいくなんて、考えられない。
もう二度と離さないと誓った。
だけど、今は仕事も再開して、樹には樹の世界が出来つつある。
それを全て捨てて、ついてこいなんて…言えるはずがない。
「返事は急がないよ。だけど、ちゃんと考えてほしい。タツキも大切かもしれないけど、アヤトの人生なんだ。日本にいるよりも、こっちへ来た方がアヤトの為になる。それは、わかっているだろう?」
テオの真剣な瞳が、俺をまっすぐに射抜いた。
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