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「ただいま」
ニューヨークでの公演を無事に終えて、一週間ぶりに自宅へと辿り着く。
いつもの柔らかい笑顔で出迎えてくれると思っていたのに、返事はなくて。
「樹、いないの?」
もしかして、なにかあったんじゃないだろうかと慌てて靴を脱ぎ、リビングへ駆け込むと。
ローテーブルの上に仕事用のパソコンを開いて、なにやら真剣な顔で考え込んでいる樹を見つけた。
「ただいま、樹」
ちゃんとそこにいたことにホッとしつつ、もう一度声を掛けると、弾かれたように顔を上げて、パタンとパソコンを閉じる。
「あ、おかえりっ!お疲れさま!」
そうして立ち上がって小走りに俺の側へとやってくると、ぎゅっと抱きついてきた。
「ど、どうしたの?」
いつもは俺が抱きしめると、仕方ないなって顔で抱きしめ返してくるだけなのに。
いつもとは違う反応に、動揺が走る。
なんかあった…?
「どうしたって…逢いたかったからに決まってるじゃん。彩音がいなくて、寂しかった」
だけど、耳元でそう囁かれて。
その言葉だけで不安が喜びに変わって。
俺は手に持ってた鞄を放り投げると、その身体がしなるほどに強く抱きしめた。
「俺も、逢いたかったよ。ずっと樹に逢いたかった…」
「…彩音…苦しい…」
背中を叩いて訴えられて、ちょっとやり過ぎたかと笑いながら身体を離す。
だけど、樹は真剣な表情で瞳を揺らしていて。
「彩音…キス、して…」
そう言いながら、瞼を閉じた。
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