548人が本棚に入れています
本棚に追加
テオに断りの連絡を入れよう。
その日、狂ったように何度も俺を求める樹を抱きながら、そう決意したのに。
結局、何日経ってもテオへと繋がるボタンを押すことが出来なかった。
わかってる。
本当はあっちに戻りたいんだ、俺は。
だったら、樹についてきて欲しいって、そう言わなきゃならないのに。
それも出来ない。
『ただ側にいて、彩音くんが振り向いてくれるのをじっと待ってろって?そんなの冗談じゃない。俺は、彩音くんのペットじゃないよ』
まだ記憶をなくす前の、樹の言葉が痼のように俺の中に留まっていて。
せっかく仕事を再開して、ようやく樹は樹自身の未来へ向かって歩み始めたのに、それを邪魔するなんて、出来なかった。
どうするにしろ、テオに連絡しなければ向こうだって困るのに、なにも決められない。
深いため息をつくしかない。
「…彩音、老けたね…」
茶化すように、冬也が笑いを含んだ声で言った。
「うるせー。放っとけ」
「なになに?悩み事〜?俺でよければ、相談に乗るよ〜?最近、早漏気味とか〜?」
陽なんか、明らかに笑いながら見てる。
「んなわけねーだろ。バカかおまえ」
「バカってヒドいっ!」
「そんなことより冬也、話ってなんだよ?」
最初のコメントを投稿しよう!