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樹は動じた様子もなく、一つ頷いた。
「うん」
「でね?その…出来れば…俺に、ついてきて欲しいんだ…」
少し震える声でそう言ったけど、それに対しての返答はない。
「わかってる。少しずつ樹も仕事出来るようになってきて…樹には、樹の生きる道があるんだって。だけど、やっぱり離れるのは嫌だよ。どうしても傍にいて欲しいんだ。だから…俺の我が儘だってわかってる、けどっ…」
どうやったら首を縦に振ってくれるだろうと、焦って早口で捲し立てていると。
「いいよ?一緒に行っても」
樹の静かな声が、俺を遮った。
「……え?」
一瞬、なにを言ったのかわからなかった。
「ついていくよ。彩音に」
まさか、そんなにあっさり望んだ答えが返ってくるとは思ってなくて。
驚いて言葉をなくす俺の前で、樹はゆっくりと微笑む。
「やっと言ってくれた」
「………え?」
「知ってたよ?彩音が、外国に行きたがってること」
完全に絶句する俺を見つめながら、樹はくすくすと声をたてて笑うと。
「一緒に、連れてって?だって、ずっと傍にいるんでしょ?」
顔をゆっくりと近づけてきて。
そっと俺にキスをした。
合わせた唇は、ほんのり甘いカフェオレの味がした。
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