第四章 公私混同の異動

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 ***  唯香(ゆいか)とのおしゃべりはストレス発散になる。彼女も同じようで、一緒に暮らす男性がいても、同期の友情は特別だと感じる。  連絡したので、唯香の恋人が迎えに来てくれた。何度も会っているので恵理とも親しい。  「こんばんは。唯香迎えに来ました」  「久しぶりですね。ちょっと待っててください」  恵理たちよりも数歳上の平凡な顔立ちの男性だけど、穏やかで優しいので、好感を持っている。  「明日と明後日ゆっくりしな。また来るね」  ひらひらと手を振る唯香に、恵理も振り返しながら見送る。恋人に支えられている彼女は安心しきった表情で、思わず羨望(せんぼう)の視線で見てしまった。  五年間を耀士(ようじ)との不倫に費やした。一番、結婚しやすい時期を無駄にしたのは間違いない事実だ。  アラサーになると、仕事だけでなく婚活も岐路(きろ)に立つ。こちらも若い子に負けてしまう。  (もっと早く別れてたら……)  自分が悪いのは充分に分かってるけど、溜息が出た。
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