第七章 私の帰る場所

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 正悟は、懐かしい記憶を思い出すように、少し遠い目をしていた。  「恵理さんに初めて会った時、僕、コーヒーサーバーの前で立ってたんだ。  おまえ、暇なんだから、みんなにコーヒー()れてこいって言われて……  経理部の人のこと、完全に(おぼ)えてなかったし、何を飲むかも全然分からなくて。()きに行こうとしたら、仕事の邪魔するなって妨害されるし……」  子供以下の嫌がらせに、苛立(いらだ)ちだけでなく呆れた思いも湧いた。そんな人間はまったく使い物にならなかったに違いないと思った。  「その時、経理に恵理さんが来たんだ。領収書持ってきててさ。  サーバーの前で立ったままの僕に気づいて、声を掛けてくれたんだ。  どうしたの、何か困ってるのってね」  説明されても、まったく思い出せなかった。でも、正悟には忘れられないことだったと分かる。  「仕事することもできないで立ったままだったから、恵理さんが声掛けてくれた時、泣きそうだったんだ。  説明したら、恵理さんが、全員にコーヒー淹れるといいわって言ってくれたんだ。  飲まない人なら、そこで言ってくるからってね」  やっぱり全然思い出せない恵理だ。彼女には、記憶するほどのできごとではなかったのだろう。
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