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2 おれの幼なじみ
残り少ない桜の花びらが、ひらひらと宙に舞う。
青く澄みわたる空、暖かい風と春のにおい。
四月の窓際の席はまぶしいくらいだ。
おれ――相川柊は六年生になった。
新学年になって、早いもので一週間。
クラス替えをしたばかりの教室に入り混じるのは、少し遠りょした空気と慣れ親しんだ声。
「最高学年とは」という先生のありがたく長い話を聞き、教室が三階から四階になって、「今日から六年生か」と思った日からもう一週間がたってしまった。
時間がたつ感覚は年々早くなるものだって、小学生ながらにジジくさく思う。
きっと中学生になったら、部活だ、勉強だ、受験だって今よりもっとあっという間に過ぎていくんだろう。
こうやってぼんやりしている時間がとても貴重なんだ。きっと。
ポカポカと暖かくなった机に突っ伏す。
……平和だ。眠くなるほどに。
ふぁとあくびをしかけた時、
ガターン! バンッ! ドーン!
腹の底に響き渡る重低音がとなりの教室から聞こえてきた。
「きゃぁぁっ」
続けて悲鳴みたいな女子の声が響く。
バタバタと足音がしたかと思うと、となりのクラスの田中がかけこんできた。
「相川! 来てくれ! みぞれがっ……」
――みぞれ
そのワードを聞いて、小さなため息をついて立ち上がる。
おれの「平和」な時間は五分とたたずに終了してしまった。
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