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仕事が終わって家に帰ると、玄関のドアに貼り紙がしてありました。
【やっぱり足音がうるさいです。注意して歩くようにして下さい】
またか……と嫌な気持ちになりました。
実はここ最近下の階の102号室の人から嫌がらせをされてるんです。
私は普通に生活をしているだけなのに、今回の様に足音がうるさいだの、トイレの音がうるさいだの無茶な事を言ってきたりするんです。
しかもこうやって直接ではなく貼り紙で。
「はぁーもうほんと最悪」
私は貼り紙を丸めて家の中に入りました。
どうして普通の日常生活を送っている私が理不尽な注意をされないといけないんだろうと考え憂鬱になります。
そもそも私は102号室の人の顔は見た事ありません。
じゃあ何で102号室の人が貼り紙をしたか分かるのかって思いますよね?? それは足音が隣の人に聞こえる訳がないからです。
だから絶対下の階の102号室の人が貼り紙をしたに決まってる。私はそう考えました。
しかしそれは大きな間違いでした。
翌日私が管理会社に電話をすると衝撃的な事実を聞かされたのです。
「102号室は今空き室ですよ」
じゃあ一体誰が貼り紙をしたんでしょうか。
私が管理会社の人に尋ねると電話が保留にされました。
一分程待って保留が解除されると、先程とは別の男性が電話に出ました。
「お待たせして申し訳ございません。担当代わりましたスズキです。貼り紙の件ですが、恐らく貼ったのは203号室のアキヤマさんですね」
私はそこで初めて隣の203号室に住んでいる人の名前がアキヤマだと言う事を知りました。
一度お見かけした事があるぐらいで、挨拶も交わす事はありませんでしたが、若い男性でした。
スズキさんは更に話を続けます。
「そのアパートは今アナタとアキヤマさんしか住んでいないんです。まぁ外部犯って可能性もありますから犯人と決めつけるのはまだ早いですけど」
確かにドアに貼り紙をするぐらいなら外部犯の可能性もありますが、外部犯がそんなに何回も貼り紙をするもんなのでしょうか??
私は何とか出来ないのかとスズキさんに聞いてみましたが、スズキさんは私達に出来る事は無いと言うだけでした。
「分かりましたじゃあいいです。失礼します」
何の役にも立たない管理会社との電話を終えた私はある重大な決心をしました。
「引っ越しをしよう」
結局私にはアキヤマさんを問い詰める勇気はありませんでした。
貼り紙の事を聞いた結果逆上されたらどうしようとか、アキヤマさんが犯人じゃなかったらどうしようとか考えてしまうんです。
こうして私は嫌な事から逃げる選択肢を選び無事にアパートから引っ越しました。
完
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