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「ごめんな?彩音。」
「気持ちはどうしようもないから…幸せになってね?相手の事も大事にして幸せにしてあげて。良い恋愛をしたと私が思える様に。じゃあ!」
車を降り様とドアを開けた彩音に焦って声を掛ける。
「送る!」
「いい!彼氏じゃない人に送ってもらう趣味はないの。」
「だって、ここからこんな時間にバスは…。」
「タクシー捕まえる。この辺じゃスマホにタクシー会社の電話番号登録は必須!配車アプリなんて役に立たないからね。教えたでしょ?」
クスクス笑いながら、元気でね、と同時にドアが勢い良く閉められた。
最後まで良い女だった。
理想的な女性だった。
楽しく付き合えて、愚痴にも付き合ってくれて我儘は言わない、贅沢も言わない、別れも引き摺る事もなく縋る事もなく。
(二ヶ月か…。キスだけだったから良かったのかもな。それが少し残念でもあるけど…。)
最後にしてから…なんて都合のいい男の考えが頭に浮かぶ。
離れて行く彩音の後ろ姿を見ながら…だけど今ここで最後だからとそれをしたらと想像する。
最後だから良い思い出になったと言うだろうか、それだと有り難いけど、最後にこういう事する、とか言われて、やっぱり別れないと言われたら怖いなとも想像した。
馬鹿な事を考えているうちに、気が付けば彩音の姿は消えていた。
食べ終えた袋も持っていった。
こういうとこが彩音らしかった。
「彩音が社長の娘ならな。いや…百合花さんの方が胸も大きいし何よりセクシーだからな。うん……美人だし地味じゃないし。」
彩音はいつも地味だった。
洋服も持っている物も全て、落ち着いた物を好んだ。
女性としてみたら百合花さんの方が上。
暫くそこにいて百合花さんに電話を掛けた。
気持ちを切り替えて、今何してましたか?と明るい声で。
『今?叔父と従姉妹と食事中なの。クレンズって知ってるかしら?』
「はい。有名店ですよ?」
『ふふっ…ここのミスジステーキ、大好きなの。』
耳元でする甘い声に、高級店だなと思いながら答える。
「いつか一緒に行きたいですね。」
『そうね?何か用でした?』
「いえ、何してるかなって、声が聞きたくなって。」
『そう?ふふ…お付き合い記念日でも作ってお祝いします?』
「いいですね。明日は無理なので…また電話します。行きたい所あったらメール下さい。」
『思い付いたらそうしますね。おやすみなさい。』
食事中だからか、通話はすぐに切られた。
百合花は短い期間、付き合う男性がコロコロ変わると噂で聞いていたので、気を付けなくてはと気を引き締めた。
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