915人が本棚に入れています
本棚に追加
社長にさえなれば女は向こうから近付いてくる。
その頃に実質的に力を手に入れていれば、妻になった百合花が何を言おうが問題もない。
「緊張してる?」
百合花に聞かれて微笑みを返し、手を握った。
「緊張してるけど、百合花がいるから…。家にも帰りに寄ってくれると言ってくれて嬉しかった。」
「当然じゃない。大事な息子さんと婚約するんだもの。お付き合い期間が短いから反対されないか不安だわ。」
「大丈夫だよ。」
百合花の婚約の決め手は皮肉にも彼女の行きつけの店、「小坂の寿司屋」だった。
*******
まだお付き合いの返事をもらう前、会社帰りに食事に誘った。何度目かの事だった。
小坂寿司店は百合花の行きつけと聞いていて、事前にリサーチをしてそこに連れて行った。
「ここ?」
「うん、百合花さん、好きなんでしょ?」
「そうだけど…。」
不安そうな顔をしていたけど店の中に入った。
「すみません、予約している高山です。」
店員に言うと席まで案内してくれた。
座ると、百合花は驚いた声で聞いて来た。
「予約、よく取れたわね?」
「ああ、大変だったよ?キャンセルが出たら教えてほしいって毎日電話してね。百合花さんが好きだって知ったから僕も同じ物を食べてみたくて。出来れば一緒に食べれたら、どんな物が好みか分かるしね?百合花さんの事、沢山知りたいし…。」
百合花は微笑んで嬉しいと泣きそうな顔で呟いた。
「私の好きな物を知りたい、一緒に食べたいなんて凄く嬉しい。一緒に暮らすってずっと食事を共にするって事なのよね。私、食べる事が大好きなの。少し体型も気にしてるけど、美味しい物は最高に贅沢な時間をくれると考えているの。それを共有出来る人はなかなかいないわ。無理に合わせられても変に遠慮してしまうし。」
「うん、分かるよ。睡眠と食事って絶対に必要な事なんだって。僕もいい加減な食事をする人は苦手なんだ。だから百合花さんに一眼惚れした後で、百合花さんの食事がきちんとしてて、命を戴くっていうの?そういうところが益々、好きになったんだよね。」
自分を見てくれている、百合花はそう思ったらしく、その後のお付き合いを了承してくれたのだと聞いていた。
*******
百合花に関しては徹底的にリサーチした。
食品会社の社長令嬢に相応しく、彼女は「食」、食べるという行為をとても大事にしていた。
そこから攻めたのは間違いではなかった。
最初のコメントを投稿しよう!