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彩音が別れた事、そしてダメージがなかったという事から、百合花の恋人については朱莉から報告はしなかった。
別れるかもしれないし、二人が上手くいけば嫌でも彩音の耳に入る。
高山悟とは同じ会社にいるのだし、その相手とは同じ家に住んでいるのだから。
年末に経過報告で送る報告書には仕事の事のみを書いて送った。
(いろいろ複雑だしね。)
朱莉もまた複雑な心境でそれを彼氏の伊出にだけ話した。
伊出も別れた、一か月以内、となればまぁ、仕方ないかもな、二股を決めるには期間が短い、と言い、彩音が傷付いていないならいいんじゃないのかなと言っていた。
見ない振りをして、年末年始が近付き、仕事が休みに入ると、それぞれ実家に帰る事になった。
私は東京に実家があるがこっちにも一つあり、そこは今、母がのんびりと住んでいる。
マンションだけど未だに自分の部屋はそのまま。
因みに母は東京とを新幹線で二時間掛けて週の半分は父親の様子を見にく。
夫婦仲は鬱陶しい程に良好。
彩音はここから電車で三時間の山間の街に帰る。
「えむファーム前」でバスが止まるが1時間に一本、そしてそこから家までが長い。
足腰が鍛えられた彩音には普通の距離なのだろうけど、私はいい感じのジョギング距離だった。
「えっ?彼氏と挨拶に行くの?」
暫くバラバラという事で、今年もお世話になりました、またね、という飲み会を家に帰る前日に開いた。
百合花が実家に彼氏を連れて行く事を報告した。
「百合花、結婚するの?うわぁ〜そうかぁ。とうとうここも二人かぁ。」
おめでとう、と百合花のグラスに合わせる彩音を見て少し心が痛んだ。
「まだ先の話よ?付き合って間もないから早い気もするけど、婚約だけでもって。彼が来年、親会社に帰る時にはちゃんと婚約者として周りにも認識して欲しいしね。」
「へぇ〜、えっ?て事はうちの会社の人?誰誰。」
(やばい!これはやばい!いや…ここは知らないふりがベスト?)
と悩んでいるとなにも知らない百合花が、普通に報告した。
「うん、営業のね、高山悟さんていうの。知ってる?」
「たか…やま、悟?………あ!あ〜あ、はいはい、思い出すのに時間掛かったわ。接点はないけど見た事はあるよ。挨拶くらいは数回したかな?親会社から来てる人だよね。そっかぁ、じゃあ高山さんが帰ったら百合花も東京に戻るんだね。仕事いつ辞めるの?」
「まだ具体的には。決まったら話すね。」
「うん、お祝いだね。」
笑顔でおめでとうをいう彩音を抱きしめたい気分になった。
ダメージがない位、好きではなかったかもしれない、けれど…全く嫌いだった訳ではないだろう。
多少の好きはあったはずだ。
明るい彩音は良い子だなと思った。
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