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「いつもありがとう。」
お料理を運び、笑顔でテーブルに近付いて来たのはこのお店でバイトをしている人で、紹介したい一人だった。
「紹介するね。彼が私が今、お付き合いしてる人で、高山さん。高山さん、こちらここでバイトしていて、仲良くしてもらってて、それで…友達の朱莉ちゃんの彼氏なの。伊出さんです。」
「あぁ、朱莉さんの。初めまして、彩音さんとお付き合いをさせて頂いています。高山と言います。よろしくお願いします。」
立ち上がり名刺を差し出す姿を見て、伊出も驚いていたが、受け取り挨拶してくれた。
「伊出です。朱莉からお噂は聞いてます。仕事が出来る人だって。ごゆっくり。」
ペコリと頭を下げてから、下がって行く瞬間に顔を見て目配せをした。
ーーーごめんね、名刺。
いいよ。ーーー
無言でやり取り出来る仲、名刺が悪い訳じゃないけど、会社での付き合いでもないし、友達の彼氏だと紹介したのに硬いな、と思いながら食事を始めた。
「朱莉さんてうちの本社の社長の姪って噂聞いたけどほんと?」
聞きながらも子会社の経理に一族の子供は居ないよねーと高山は続けた。
会社は創業者一族で運営されていて、今の社長は前社長、現会長の長男になる。
世襲という訳ではないが、自然な流れ、無能ではない長男という事で順当な後継らしい。
会長には息子が三人いて、長男は現社長、三男は副社長になっている。
次男は気ままに別の職業に就いている。
現社長と副社長は母親が違う為、年齢に開きがあり、現社長が少し前に体調不良で入院した事もあり、そう遠くない将来、副社長が社長に就任なんて噂もあった。
朱莉は副社長の一人娘になる。
「よく知ってるね?それ、朱莉に話すと嫌がるよー。色眼鏡で見られたくないからって子会社に入社したんだし、真面目に仕事してるしね。」
「本当なんだ。副社長の娘と友人なんて凄いな?」
「小さい頃から仲良しだから、親は関係ないし…。」
(………何だろう、このモヤモヤは。隠す事じゃないんだけど、なんか言いたくない。かっこいいし、紳士だし優しいし…好き、なんだけど、な。)
相手から付き合って下さいと言われて、カッコいいと思ってたし優しいし、付き合い始めて一か月だから気持ちってこんな感じかなって、深くは考えなかった。
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