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「ただいまー。」
それぞれの最寄駅で別れて、先に降りた私は電車で手を振る高山さんをホームで見送った。
最寄駅から歩いて5分。
駅裏の細長いマンションはワンフロアに3室の3LDK。
ここを友人と3人でルームシェアしている。
お互いの親も知っていて一人で住むより安心という事で、ルールは部屋に許可なく誰も入れない事。
冷蔵庫に入れる時は名前を書く事。
共同場所は使った人がその都度掃除(お風呂とお手洗いと台所重視)、基本は週交代で掃除分担。
人の部屋には入らない、自分のスペースは自分で掃除する、などで、家賃を引き落とされている口座に同金額を入れて、そこから他の必要経費が落とされる。
銀行口座を管理してるのは一番最後にここへ来た真部百合花。
真部朱莉の従姉妹で現社長の一人娘。
今は知り合いの会社で受付嬢をしている。
口座名義は契約者である、私、新川彩音。
「おかえりー彩音。デートで知り合いのいるお店に行かなくても…。」
リビングでくつろぎ、手に小さな瓶ビールを持って、残りの手に齧りかけのスルメを持ってソファに横座りで言って、迎えてくれたのは朱莉。
「伊出さんから連絡あったんだ。わざわざ連絡する?」
笑いながら言い、水を求めて台所に入った。
「心配だったんじゃない?彼氏いない歴長いから。」
「余計なお世話ですぅ〜。」
「どうなの?高山は?」
「んー優しいしいい人だよ。」
「それじゃあ上に報告出来ないでしょ?」
「それ目的で付き合っている訳じゃないもん!向こうから言われていいなって思ったからだし?」
テーブルの上にあったスルメと開いてないビールを手に取った。
「私は報告義務があるの!仕事振り、人柄、戻すタイミング、伯父さんに頼まれているんだから!人柄を知るには彼女の意見が一番でしょ?」
朱莉は上から子会社に来た社員の査定を毎回任されている。
左遷でもないのに子会社に行かされると分かると、途端に左遷と思い込み荒れる社員ややる気がなくなる人もいる。
逆にやる気を出す人もいるし、これ幸いとおイタをする人もいる。
本当の意味での左遷もあるが、大抵は昇進前の下調べ。
本社では分からない本質を子会社で見極めようというリサーチの一環になる。
勿論、朱莉の報告だけで親会社に戻る事や昇進が決まる訳ではなく、参考として報告書の一つになるだけだが、朱莉はやり甲斐があると言っている。
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