4 眠れる森の美女

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 ペンダントを首から離そうとするリリィの手を、美夜はやんわりと押しとどめ、首を横に振った。 「きみが持っていて。わたしの代わりだと思って」 「ご両親の形見なんでしょう?」 「その形見を私は削ったり改造したわけだ……不孝者だろう?」 「改造?」 「さあ、蓋を閉めるよ」  数回のパネル操作音ののち、リリィの頭上からカプセルの蓋が落ちてきた。顔の部分だけはお互いの表情が見えるように太いガラスでできていて、こちらを覗き込んで手を添える美夜の顔がある。崩れ落ちそうな表情をしていた。 『わたしたちはきみが目覚める数年前に着地する予定だ。復興して、平和になった未来の先できみが次に目覚めた時、必ずわたしがそばにいる。真っ先におはようを言うよ』 「約束よ」 『約束だ……と言いたいところだが、人生何が起こるかわからないからね。もしも何らかの理由でわたしたちが着地した未来の座標がずれていたり、シェルターに問題があって目覚めたポイントが違かった時、すぐに合流できるような仕掛けがそのペンダントというわけさ』  美夜の言葉の合間にも、体の周りには凍えるような冷気が吹き付けていて、リリィは意識を保っていられなくなった。 『水晶を通した光は屈折し、多くの場合散らされる。その内角をちょっといじって光を望んだ方向に収斂させたら、どうなると思う?』  眠りに抗うため目を開いていたが、限界だった。リリィは震える瞼を閉じて、沈黙と暗闇の中に身を落としていく。  愛する友人の声が最後に聞こえた。 『おやすみ、リリィ』
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