43人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
粉塵と瓦礫の平野だった。視界の中に動くものはなにもない。草木は一つも生えておらず、殺伐とした空間が地平線へ広がるだけである。すべてが灰色と藍色の中にあって、唯一目覚めたてのリリィだけが、金髪を垂らし白い服に身を包んでいた。
「美夜……?」
旧友はおろか、誰もいない。世界が死んだみたいだ。リリィは自分の置かれた状況を理解して、わっと泣き出した。突然の声に飛び上がったヴォルフが、カプセルの外へ逃げた。
「起きる時代をまちがえちゃったんだ」
もう美夜には会えない。髪を梳いてもらうことも、星空のような黒い瞳を覗き込むこともできない。
「わん」
ヴォルフが一声鳴いた。
リリィはしばらく泣きじゃくっていたが、賢明なブル・テリアは地面を小さな輪っかになって走り回った後、もういちどリリィを鼓舞するように「わん」と吠える。
「……そうだね」
リリィはヴォルフの一鳴きに背中を押され、石膏のごとき白い肌から流れる涙を、掌で一生懸命に拭いた。
「まだ世界に私一人しかいないって、決まったわけじゃないよね」
「くぅん」
「うん、一人と一匹」
リリィは華奢な身体を震わせて、ついに灰色の大地に足をつけて立ち上がった。カプセルの中にあった非常用の袋に懐中電灯があったので、手に持つ。
「美夜は絶対に私を置いてきぼりになんかしない。そうよね」
「わん」
「いきましょ、ヴォルフ」
リリィはヴォルフと共に死の平野を歩き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!