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2 魔弾の射手
リリィが生きた世界は戦争の真っ只中だった。
美夜はシェルター最奥部にある研究室へ舞い戻ったかと思うと、木の板にホイールキャスターを付けただけの粗末な台の上へ背中から寝転び、リリィからは珍妙としか言えぬ機械の真下に入り込んで工具を手に取った。
「研究室の外を確認してきた。相変わらずミサイルの無粋な花火しか催し物はなかったね。一刻も早く真の夜空を拝みたいものだ」
何気ない美夜の言葉は、リリィの心に深い陰を落とした。
「ますます激化してるのね」
「戦争自体がもともと激しいものだよ。兵器を扱う者はみな『魔弾の射手』だ。六発目までは好きなところに命中するが、最後の弾丸は結局、悪魔の望む場所に命中する」
「どうしてこうなったのかしら」
「わたしが天才すぎた」
機械の下から鼻笑いがひとつした。
「地球の資源は、もはや戦争が終わっても回復不能なレベルにまで落ち込んだ。ならば『せめて生き残りくらいは、自然が回復した未来へ行ければ』とタイムマシンを作ったけど、先走りすぎたな。科学技術は兵器と表裏一体だ」
美夜はリリィから姿を隠したまま、珍妙な機械ことタイムマシンを、拳で軽く叩いた。
「どこから情報が漏れたのか、これをめぐってこの戦争はますますのありさま──」
「美夜たちは立派に頑張ったわ、夜も徹して!」
リリィが美夜の自嘲を遮る。
「いろんな罪のない命が奪われるのを、私は安全なシェルターの下で見ているだけ。美夜たちと違って何もしていないお荷物なのに……」
美夜は前触れなくぬっとマシンの下から顔を出した。リリィが驚く間も無く、起き上がった美夜が短い黒髪を耳元から払って、慈しみの視線とともにリリィの頬へ手を触れる。
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