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「ふふ、きみは研究員達のむさくるしさと殺伐さを知らないからそんなことが言えるんだ。ここの人たちはきみの笑顔を支えにして生きている。タイムマシンの完成はきみのおかげと言っても大袈裟すぎやしない」
リリィは少し顔を赤らめて、うつむいた。美夜の黒いノースリーブの胸元に小さな水晶のペンダントが光っている。
「……美夜も?」
「屁理屈屋でこましゃくれた戦争孤児だったわたしを、真っ先に『家族』だと言ってくれたのはきみだったよ、マイ・リリィ」
言って、美夜はリリィの頬に唇を一つ落とした。
彼女の感触をリリィは言葉にできない。どこか──たぶん心の奥底が、きゅっとなる。美夜のキスは熱くて、同時に冷たかった。
言葉を避けるとき、美夜はいつもリリィの頬や額にキスをする。例えば徹夜明けを叱ったとき。例えばヴォルフへのやつあたりを咎めたとき。
「ねえ、美夜」
「なに、お姫様?」
「さっきタイムマシンは完成したって言ったよね」
「きみのおかげでね」
「なのにどうしていまもマシンをいじっているの?」
美夜はリリィから顔を離して、曖昧に「ん?」と喉で問いかけをはぐらかすばかりだった。今度はリリィが、両手で美夜の頬をはさむ番だった。
「研究員達がここ最近、夜ごと会議スペースに閉じこもって怒鳴りながらなにかを議論しているのと関係があるの?」
「きみが心配するようなことは何も起きない」
「戦争は起きた」
美夜が相手をなだめようとするほどにリリィは前のめりの姿勢になった。
「タイムマシンが完成したのにいますぐ未来へ飛ばない理由はなに? なにを待っているの? タイムマシンで未来へ行って二度と戻ってこなければ、マシンを奪い合うことも無くなるのに?」
「落ち着いて。体に障る」
「ねえ、正直に言って!」
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