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3 運命の力
リリィはガラクタの端で怪我をしないよう慎重に歩を進めたが、歩けども、歩けども、あるのは瓦礫の積み重なった道なき道ばかりだ。
ヴォルフはしきりに地面をくんくんと嗅ぎながら麻薬犬のように歩いているせいで、鼻が灰で真っ黒になっていた。そして倒れた棟の下に素早く潜り込み、リリィの元へとんぼ返りした。
リリィの瞳がまんまるになる。
「だめよ、ヴォルフ!」
忠実なヴォルフがくわえていたのは、人骨らしきものだった。
「戻してらっしゃい!」
リリィの悲鳴に、ヴォルフは尻尾を丸めて人骨を瓦礫に戻した。
どれほど歩いただろうか、息が上がりもう一歩も動けないというほどになって、リリィは足元の廃屋の残骸に手頃な座り場所を見つけて腰を下ろした。すかさずヴォルフがリリィの膝の上に飛び乗って舌を出す。
「喉が渇いたのね。でも袋の中に水はあるんだけど、皿がないのよ。もうちょっと我慢してね」
「へっ、へっ」
目覚めてから数時間しか経っていないにもかかわらず、いよいよ進退極まってきた。生物はおろか、動くもの一つにも出会わない死の灰と塵芥の世界。
リリィは胸にぶら下げたペンダントを握りしめた。自分の瞳のようにきれいだと言ってくれた、多角面の水晶だ。
親の形見すらも預けてくれた美夜が、約束を簡単に放り出したりしない。
リリィはタイムマシンと別の手段で未来を目指すことになったが、合流できなかった場合に備えてあらゆる手段を投じているはずだ。
もしもリリィが予定していた未来よりも早い──つまり戦火の爪痕がまだ癒えていない──時代に取り残されていたのだとしたら、自分の開発したタイムマシンできっと迎えにきてくれる。もしも目覚める時代が合っていたとして、自身が迎えに来ることが叶わなくなったら、別の方法でリリィを誘導してくれるはずだ。
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