4 眠れる森の美女

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「タイムマシンではきみは時間移動の負荷に耐えられない。であれば、違う手段で未来に行って、わたしたちと合流すればいい。クライオニクス……冷凍睡眠(コールドスリープ)だ」  リリィは言葉を失い、立ち尽くした。 「我々は持ちうる限りの知識を尽くしたが、この方法が最善ということになった。コールドスリープならタイムマシンよりかはきみの身体に影響が少ない。わたしたちは未来へ一瞬で飛ぶが、きみは文字通りこのカプセルの中で数世紀眠りつづける」  美夜は言って、リリィの両手を取って強く掴んだ。 「きみのための特注品だよ、マイ・リリィ。このシェルターは絶対に破られないし、経年劣化にも耐えうる。目覚めたらわたしたちが飛んだ先にいる時代だよ。輝かしい未来だ」 「離れ離れになっちゃうのね」 「体感としては一瞬だよ」  美夜は強くリリィを抱きしめて、水に触れた猫のように体を離した。 「悪いんだが、ことは一刻を争う。今すぐに寝てもらわなければならないよ」  リリィはすぐに自分の使命を心得て、カプセルの中に体を横たえた。 「眠りの森の美女(スリーピング・ビューティ)さ。チャイコフスキーを夢の中で演じると思ってくれ」 「うまくできるかしら」 「観客をつけよう。ヴォルフ!」  鋭い呼び声に応えたヴォルフは主人の胸の中に飛び込んだ。美夜はヴォルフをひと撫でして、そのまま胴を掴み、カプセルの中へ入れる。 「お姫様を頼んだよ、相棒」  ヴォルフはすでにリリィのなかで丸まっていた。美夜は苦笑して、胸元のペンダントを外し、リリィの首にかけた。 「お守りだ」 「だめ!」
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