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ぼたりぼたり、という音に憶えがあった。
浅い眠りをふり払うように身を起こし、下のロフトを覗きこむ。
目を凝らしても、ぜんぜん空っぽのロフトベッドがあるだけ。金網状の底板ごしに、床までが見通せる。
そうだ、あなたはもうここにはいない。
深夜の部屋を薄く照らす窓の外の雪に、『蛍の光』を思い出す。あなたの卒業式でも流れていた。あなたは卒業して、この部屋を出ていった。この雪をもたらした季節外れの大寒波について、話をすることもできなかった。どんなに寒くたって、「寒い」ってぼやく私に肯いてくれるあなたがいれば、温かくいられたのに。
鳴り続ける音は、固まり始めた屋根の雪を雨が打つ音。寝ぼけていた頭が、ゆっくりと理解してゆく。
あなたがまた、泣いているのかと思ったんだよ。
あなたの大粒の涙が綿布団に落ちる音と、よく似ていたから。
あなたが泣いているのなら私は放ってはおけないから、飛び起きたんだよ。
あなたが泣いているのでなくてよかったと思う。
それ以上に、あなたの涙の音がもう私に聴こえるべくもないことを思い知って、絶望を覚える。
四月になれば、ちがう子が私のルームメートになる。
あなたは、そんな当たり前のことを悲観していたでしょう。
あなたは、自分の卒業が私たちの終わりだって、決めつけていたでしょう。
あなたのきれいなきれいな「さよなら」が、ただの強がりだって、知ってたよ。わかってたよ。
ちゃんと伝えられなくて、ごめんね。この先もずっと特別なんだって、これが終わりなんかなじゃないんだって、信じてもらう方法を見つけられないまま、あなたを見送ってしまった。ほんとうにごめんね。
あなたの涙の音を、私は忘れられない。
繰り返し繰り返し、雨が雪を打つ。
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