カタワラニボクナキガゴトキキミノ

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 きみとつき合えないのなら、この人生は失敗だと思っていた。  きみと両思いだとわかった時は、すごくうれしかったんだよ。  だけど、きみに先に「好きだ」って言わせてしまったことは、ちょっと悔やんでいた。  だって、ぼくが先に言いたかったんだ。  だから、これは、願ってもない。  願ってもないことだよ。  きみと、もう一度出合えた。  いつだってきみは傍らに人無きがごとし。  なのに、あたりまえにぼくのことを従えていた。  いつか、狸寝入りをしていたでしょう。  テレビを見ていたぼくに、背をむけて。  こたつの、いちばん長い辺を陣取っちゃってさ。  ぼくが少し伸ばそうとした足を、そのたび遠慮なく蹴りつけて、さ。  なんであの時、ぼくは黙っていたんだっけ。  けんかでも、してたんだっけ?  とにかく、きみが、なんか、へそを曲げてて。  ぼくも、なんか、意地を張っちゃって。  構え構え構えって、寝そべったきみの背中は語っていたけど、わざと無視してた。  そのうちにぼくが本当に眠り込んじゃったんだよね。  目が覚めたら、きみはまた怒ってた。  きみの、爆発する喜怒哀楽ぜんぶが、ぼくはたまらなく好きなんだよ。  曖昧にほほ笑むきみ、なんて、きっと、いま、初めて見た。  夢にまで見たぼくからの告白。  「好きだよ」って言えば、きみの目に、不安が宿る。  ねえ、いつも通りでいいんだよ。  ぼくの気持ちにふんぞり返るきみで、いいんだよ。  そういうふうにぼくたちは、きっと完成に近づいていた。  きみとぼくの心のピースは、少しずつ少しずつ噛み合って、確かに大きく育っていた。  なのに、どうしてかな、きみのピースが忽然と消えてしまった。  きみのピースとぴったり組み合っていたぼくのピースが、崩れて、落ちた。  ぼくたちから失われたのは、もしかしたら、愛なのかなあ。  もっと簡単なことだと思ってた。  記憶なんかなくたって、何度出合い直したって、きみとぼくはすぐに恋に落ちるものだと信じてた。  なにがあったって、きみはきみだって思っていた。  ねえ、きみは、きみなのかな。  あの頃のきみは、なにでできていたのかな。  最初からやり直すには、ぼくたちはきっとあまりにゴールに近かったんだね。  双六の最後の最後で「振り出しに戻る」に当たっちゃったみたい。  もう負けでもいいやって、もうお開きにしようって、そんな感じ。  午後六時五十五分。  面会時間終了間際のアナウンス。  きみに灯るかすかな安堵を、ぼくは見逃せない。
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