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眠りが浅くなるたびに轟く雷鳴を聴いていた気がする。
大雨に洗われて、冷えた夏の朝。
表座敷の窓を開け放てば白いカーテンがふくらんだ。
西向きの深い軒が日差しを遮っている。
鬱蒼と蒸れた前栽越しに吹き込んだ風は青くさかった。
垣根のむこうに覗く黄色さえ、まぶしい。
繁殖期を過ぎたツバメの群れが電線でかしましく囀っている。
むかし母と動物園に出かけた時のことを思い出す。
パンダを、見にいったのだった。けれどまさに黒山の人だかりをつくる大人気で、とてもじゃないがそこに紛れる気にはなれなかったのだろう。母は流行りものには目がなくてテレビニュースに容易く踊る、それでいて行列には並べない人だった。人の言葉に右往左往としながら、何事にも熱狂することのない人だった。
わたしは正直なところ、パンダを見るつもりができあがっていたし、一目だけでも見てみたいと思っていた。あきらめたのは、母にコーラを買い与えられたからだ。同じ赤色の缶を二つ買って、一つをわたしによこした。母がタンサンをのむのはいらだっている時だと決まっていたし、わたしの食器の置き方が荒っぽいからと母にビールをぶつけられた記憶がまだ新しかったから、萎縮したのだ。母の教育とは、しつけとは、恐怖でわたしを支配することだった。
パンダをあきらめたわたしたちは、二人で鳥を見た。
カササギの囀りはツバメに似ていた、と思う。声だけをぐっと嗄れさせたようだった、と、思う。
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