2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「ぼくはちがう」
と言った時、かれらは世にも醜い笑みを見せて、ぼくを仲間だと受け入れた。
かれらが目を向けているのがぼくの背後だとわかって振り向き、背が凍てた。
読めない表情で、きみがそこに立っていた。
全身の血が顔へと集まる。
顔が染まるのがわかる──これはいまさら、きみへの恋のためじゃない。
羞恥だ。
かれらの好奇の目をきみだけに押しつけたことを、きみに知られた。
ぼくは此の期に及んで、自分の醜いふるまいをきみに知られたくなかった。
自分の醜さが恥ずかしくて、顔が熱い。
耳のすぐそばでも脈が打つのがうるさい。
みんなの声が聞こえない。
それでもきっとかれらはきみにまた、ひどい言葉をぶつけたにちがいないと思う。
きみのためにかれらを憎むぼくに、もうそんな資格もない。
かれらは元よりきみにとって敵だっただろう。
だけどぼくはきみの味方みたいにしてそばにいたくせに、裏切った。
きみの噂にのっかって、「ぼくはちがう」なんて。
目の前のきみが、小さく肩をすくめる。
そして、すっと左斜め前に視線を投げる──それがきみのため息をつくやり方だと、ぼくは知っている──。
かれらを──かれらと、ぼくを──かわすように、きみは歩き出す。
逃げ出すという言葉の似合わない、着実な足の運び。
ただきみは先にゆくのだ。
このくだらないところを、きみは、出てゆく。
ぼくの憧れたきみが目の前にいるのに、きみに受け入れられていたはずのぼくは失われてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!