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あまりにも容易いロックを解除して覗いた、弟のスマートフォンの画像フォルダ。
そこにはかつておれの恋人だったおとこの姿が並んでいた。
おれが頻繁に家に連れ込んでいたこいつを、弟はただおれの友達だと思っていたはずだ。
さもなければさすがにこの生意気な弟でも恋敵に恋愛相談を持ちかけてくるわけがない。
「それ……尋(ひろ)くんのじゃないの」
濡れた髪にタオルをやりながらリビングに現れたかれを、見上げる。
「すげーなおまえこんな写真撮らせてんの」
「ちょっと!」
声を荒げたかれに人さし指を立てて「静かに」のサインを送る。
おれが腰を下ろしているおなじソファで、弟はからだを丸めて寝息を立てていた。
「いやまあ気にすんなよ。おれおまえに好かれてなかったのかなってセンチメンタルになってるだけだから」
「どっちが」
かれが吐き捨てるように言った言葉に、眉を上げる。
かち合ったまなざしを逸らしたかれが大きなため息を落とした。
「弟のほうがいいやつだからとかなんとか言って振ったやつがよく言う。おれが、おまえに好かれてなかったんだろ」
「あれ、もしかしておれら脈あり? 焼け木杭に火がついちゃう?」
「なわけないだろ」
ちゃかしたおれを生真面目な声がばさりと遮る。
「まあ……弟に譲るみたいにして振られた時はめちゃくちゃ腹立ったけど、いまは感謝してる」
おれのそばへと歩み寄ったかれは、けれどおれには目もくれずに弟のからだの上でよれている毛布を整えた。
「あんなことでもなきゃ、おれには尋くんはたぶん一生おまえの弟ってだけだったよ」
指を滑らせてポートレートを繰る。飯を食ってる姿、アイスのフレーバーを択んでいるところ、シリアルのラベルを読んでいるところ、キスの前、キスの後、場合によってはセックスのさなからしいものまで。お互い、気取った間柄ではぜんぜんなかったけれど、どれもおれにむけられたことのあるどの表情とも違っている。逃した魚がでかいってわけじゃない。これはぜんぜん、強がりじゃなくて。
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