思ってもみない提案

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思ってもみない提案

この8年間、そんな感じで繰り返してきた。実際付き合ったのは最初の子だけであとは口からでまかせだ。 最初の子ともあれで付き合っていたのかと言われれば、そうだと自信を持って言う事はできないが、だからこそもう誰とも付き合う事なんてできないと思った。そこで考えたのが架空の恋人ってやつだ。架空であれば誰も傷つかない。 和の相手が葉介であったなら俺はまだ我慢ができたし、祝福もできた。その後は何かと理由をつけて距離を置いただろうけど……。 だけど和が実際付き合ったのは葉介じゃないどこの馬の骨とも分からない女や時には男もいたりして、その都度俺は自分がフラれた気分になっていた。 何度も何度も……。 だったら俺にしたっていいじゃないか――なんて思う事もあった。 なぜ好きな相手であるはずの葉介と付き合わないのか。 なぜ付き合ってはすぐ別れてしまうのか。 なぜ付き合う相手が俺ではないのか。 最近はそんな事ばかり考えていた。 「――――どうかしてる……」 「本当にね。僕は二人の友人として小一時間くらい説教したいくらいだよ」 そういうつもりの「どうかしてる」じゃなかったのだが、葉介は心底呆れたという顔で俺たちを見て言った。 「もうさ、いっその事二人付き合っちゃえば?」 「は!?」 葉介の言葉に項垂れたままだった和もがばりと頭を上げた。 「だってさ、ちょうど二人とも今恋人いないでしょ?僕だってさ毎回毎回どっちかが別れるたびにこうやって呼び出されるのは面ど……あーいやいや、もうお互いにいい歳なんだし落ち着こうよ。なんだかんだで僕たちって長い付き合いだし?お互いの事もよく知ってて友人から恋人に関係が変わってもうまくやっていけると思うんだよね。僕もみーちゃん(・・・・・)と次のステージに進みたいんだ」 そう言って照れたように笑う葉介には想い合った恋人がいる。 社会人になっていつの間にかできた葉介の恋人、通称『みーちゃん』 年下の男でえらくイケメンらしい。だから惚れられたら困るとかなんとかで一度も会わせてもらった事はない。信じてもらえてないようで寂しく思うが、葉介の事を好きな和の気持ちを思うと会わない方がいいかとも思う。 初めてその事を訊いた時、何で相手は和じゃないんだ?と葉介を責めそうになるが目の前の葉介の幸せそうな顔を見てそんな気はすぐに失せた。和と葉介の間に何があったのか、或いは何もなかったのかは知らないが、一度も二人が付き合う事がなかったという事は和がどんなに葉介の事を想っていても葉介の方はそうじゃなかったという事なのだろう。葉介たちを別れさせてまで和とくっつけたいわけじゃない。和に向ける感情とは違うが俺は葉介の事も友人として大切に思っていた。だから俺は今まで通り和の事を適切な距離で、友人として(・・・・・)見守っていこうと決めたんだ。 ちらりと和を窺えば、顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。 これはめちゃくちゃ怒ってるな……。 そりゃそうだろう。長年好きだった相手に俺なんかと付き合っちゃえと軽いノリで言われ、挙句の果てに面倒くさいだなんて――。 「――で?和君どうするの?杉君と付き合うの?多分これがだよ?」 念押しのように少し強めに言う葉介の声。和はぐっと唇を噛みしめ、こくりと頷いた。 え? 和は怒ると思った。「何で俺が杉なんかと?」って――――。 「――つき、あう」 小さくてもはっきり聞こえた和の声。 聞き間違いなんかじゃない。 信じられない思いで和を見つめていると俺には『訊く』ではなく『念押し』してきた。 「そ。じゃあ杉君もそれでいいね?」 「え?あ、でも、え??マジで?」 「マジで」 そう言うと葉介は俺と和の手を取り、重ねてにっこりと微笑んだ。 「ほい。じゃあ今から二人は『恋人』ね。そういう事で僕帰るね。みーちゃんがそろそろ寂しがって泣いてると思うからさ。あとは二人でよろしくやって?」 ひらひらと手を振り本当に帰って行った。 残された俺と和は手を重ねたまま 「じゃあ……よろしく」 どちらともなくそんな事を言った。 それからいつだったか店に流れていた名前も知らない曲の『おめでとうー♪おめでとうー♪』というフレーズが頭の中で何度も繰り返し流れていた。
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