和の気持ち

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和の気持ち

最悪なデートの数日後、俺は葉介にいつもの居酒屋に呼び出されていた。 「――でさ、なんでまたこんな事になってるわけ?」 「なんでって……」 「分からないの?和君から聞いたけどあんな事言われて和君が傷つかないとでも?和君がどれだけ考えて用意したデートだと思ってるんだよ。慣れてる?そりゃ慣れもするさ。杉君と行ったレストランに事前にひとりで何度も通ってたんだから。僕も付き合おうか?って言ったけど、初めては杉君とがいいって。絶対に失敗したくないから頑張るんだって。あの(・・)和君がだよ?人としゃべるのが苦手であんな場所で緊張しないはずがないのに、それでも杉君との楽しい食事の為にひとりで頑張ったんだ。健気だと思わない?僕なんかにはとても真似できない――――。それなのに杉君ときたら暴言吐くなんて……もう本当面倒みきれないんだけど?」 そう言ってギロリと睨まれ、俺の方もカチンときた。 こんな事まで話して貰える(・・・)和との関係性や、何でもかんでも知った顔で肝心の事には気づいていない葉介に、ムカついたんだ。だから今まで心の奥底に(オリ)のように溜まっていた不満をぶちまけた。 「――そうは言うけど……和は本当はお前の事が好きなんだぞ!それに応えもしないくせに俺を責めるのか?」 葉介はキョトンとして、すぐに呆れたように大きく溜め息を吐いて見せた。 「――はぁ?何言っちゃってくれちゃってるの……。本当ここまで杉君がバカだったとは……。あーなるほどね。だからいきなりあんな子と付き合いだして、すぐ別れたと思ったら新しい子と付き合いだして別れての繰り返しか――。うわーもうマジで?」 「な、なにがだよ……。だってそうしなきゃ和とお前が付き合えないと思ったから」 「だから身を引いたとでも?」 「――そう、だよ。悪いか……」 「そんなの悪いに決まってるじゃないか。そもそもね杉君は最初から間違ってる。和君が好きなのは僕じゃなくて杉君だから」 「は……?」 「は?じゃないよ。和君はずーっと一途に杉君の事が好きだったんだ。僕はその相談に乗ってただけなのに僕との仲を誤解して?杉君が突然他の子と付き合い始めちゃったから和君泣いて泣いてもう大変だったんだからね?」 「でも和だってすぐに他のヤツと付き合い始めただろう?」 「それ本気で言ってるの?そんなの嘘に決まってるじゃないか。あんな短期間に何人もコロコロ相手変えて付き合える程和君はドライな子じゃないよ。杉君の方だって最初以外――全部嘘だよね。和君の方はちゃんと嘘だって見抜いてたよ。ただその理由までは分からなくて余計モヤモヤしちゃって、今回付き合い始めても連絡もないし僕の提案で仕方なく付き合ってくれてるんだって思ったみたい。それに、もしかしたら杉君は最初の唯一の『彼女』の事が忘れられないんじゃないかって。だから杉君の事を繋ぎとめておきたくて初デートでホテルに連れ込もうなんて、らしくない暴挙に出たんだよ。まぁ、実際ホテルに入ったってどうしていいか分からなくて固まっちゃったんだろうけどね」 「…………」 全部ぜんぶ俺の勘違い――だった? 「それで?これからどうするの?」 「――どうするって……」 「杉君も和君の事本気で好きだったって事だよね?だったらその本気和君に見せてあげてよ。よっぽどの事してみせてよ。――僕は二人の事が本当に好きだよ。僕には愛しのみーちゃんがいるから勿論友人としてだけどね。二人の事が好きだからこそ中途半端は許さない。だから杉君の頑張りを見せてよ」 そう言って真剣に俺の事を見つめる葉介。いつだって俺たちの事を想ってくれていたのに、それなのに俺はいい年して子ども(ガキ)みたいに拗ねてあたって――。 すべては俺の勘違いと思い込みのせいで長いこと和の事を傷つけてきた。 葉介はそれを見守りフォローしてくれてたって事だよな……。 「――すまない……。ありがとう」 俺は今までの事すべてに対しての謝罪とお礼を伝えた。 葉介は「杉君の覚悟期待してる」そう言って笑った。 そう、そうだった。葉介はこういうヤツだった。和も――。 俺は自分でも気づかないうちに随分と視野が狭く、本当の事が見えなくなっていたんだなぁ……。 和が不器用な事やすぐテンパって固まってしまう事、それがツンに見えてしまう事は俺たちは――俺は知っていたはずだったのに。 俺は俺たち三人が友人になった日の事を思い出していた。
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