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華族
そう言うと薫子はメットを俺に返し、俺と香澄と並んで歩き出した。
「薫子さん、千夜くんはね、行くあての無い男性は自分の家に泊めるけど、女性は私の古屋敷に連れて来るのよ」
「諸橋も千夜も良い奴じゃな」
俺は香澄と薫子がどうなるか気がかりだったが仲良さげに歩く2人に俺の判断は間違えていなかったと確信した。
「ありがと、千夜くん。又、明日ね」
「千夜、かたじけない」
「ああ。まあ2人仲良くやれよ。香澄、後で電話する」
俺はそう言うとメットを被り、バイクに跨った。
「デンワとは何じゃ?」
「遠くの人とも話せる道具よ」
そんな会話を背に、俺は千夜組の屋敷へ向かってバイクを走らせた。
千夜組の屋敷に帰って来ると、組員の田中が出迎えた。
「坊ちゃん、お帰りなさいやせ!ケーキの材料は揃ってますぜ」
俺には将来の夢がある。
パティシエになる夢が。
跡を継がせようとしている組長の親父との交換条件。
親父が納得するケーキを卒業までに作れたら、パティシエの夢を追いかけても良いという条件。
俺は学園から帰ったら、毎日のようにケーキを作っている。
未だ親父は納得出来ない様だ。
卒業までに親父を納得させられないと、千夜組を継がなきゃいけなくなる。
俺は田中に協力してもらって、その日もケーキ作りに取り掛かった。
ケーキ作りの練習でスポンジを焼いている間。
携帯に電話がかかってきた。
見ると表示は『香澄』になっている。
俺はオーブンレンジから離れずに電話に出た。
「もしもし」
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