横濱浪漫話

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できることなら呪われた子ではなく、普通の子供として生まれたかった。普通に両親に愛されてみたかった。 こんな小屋で生涯を終えるのかと考える度に恐ろしくなる。私は本当に死んでしまうのだろうか。死んだらこの魂はどこへいくのだろう。穢れた子の魂は地獄に送られると言われている。今いる場所だって充分地獄だ。私が何をしたというのだろう。ただ生まれただけで疎まれ、蔑まれる生活に体よりも先に心が朽ち果てそうな程私はくたびれていた。 何時間泣いていたのだろう。声を押し殺して泣いていたせいか喉の奥がへばりつくように固まっていて、口で息をするとひりひりと痛んだ。ずっとうずくまっていたせいか節々も痛く、体が重い。 少しだけ窓を開き外を覗くと夕日が見えた。近頃は日が沈むと体の筋が軋むように痛む。自分が少しづつ壊れていくのを私は体の中から感じていた。私は少しずつ死に近付いているのかもしれない。そんな事を考えながら夕日を見上げているとふとタキ子さんが言っていた「金魚屋」の事を思い出した。 彼だったら何か分かるのだろうか。 そんな淡い期待を胸に抱いたが、すぐに彼も今まで会ってきた祓い師や祈祷師と同じペテンだろうという考えが浮かぶ。どうせ嘘だ。どうせ偽物だ。そう思うのに私はその金魚屋の事を考えると居ても立っても居られなくなった。 音を立てないように小屋の扉を開けると顔だけを出してあたりを見回した。 父は私が勝手に小屋から出る事をとにかく嫌がっている。街に出て何か噂を立てられるのが嫌という事もあるだろうが、母と会って彼女が暴れる事を恐れているのだろう 私は辺りに人がいない事を確認すると庭の草木の裏を通り、使用人が使う裏口からこっそりと屋敷を出た。小走りで大通りの方へ向かうが金魚屋がどこにあるか、詳しい場所は聞いていない。あたりを見回して見るが金魚屋らしき屋台は見当たらなかった。
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