横濱浪漫話

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「誰か物の怪に取り憑かれてるのか?」 「その、私の呪いを見て欲しいんです。もし悪霊とか物の怪の類ならなんとかなりませんか?」 「呪い?」 眉を潜める男に私は聞かれてもいないのに高屋敷家にまつわるお呪いの話を語った。円という女のことや自分が穢れた子だということ、死んでしまういい伝えがあること。 私が話している間、男は話を遮ることなく私の声に耳を傾けていた。こんな風に自分の話を他人にするのは初めてだった。そして自分の口で語れば語るほど、私は恐ろしくなった。 「私は高屋敷家の雲雀と言います。何か、何か分かりませんか?」 男にそう言うと彼は椅子から立ち上がり、一歩前へと踏み出した。彼が立った瞬間、水槽で泳いでいた金魚が一斉に彼の方を向いた。 「見せてごらん」 「え?」 「手を握るんだ」 男は右手を私向かって差し出した。その手は白く、男の人の手とは思えないほど美しかった。私が恐る恐る手を差し出すと彼はその手を強く握った。 ー…冷たい。 男の手が驚くほど冷たいことに気づいたと同時に、身震いするほどの寒気が全身に走った。そしてまるで引きずられるように体が後ろに引っ張られるのを感じる。ばっと振り返るとそこには闇が広がっていて、その闇の中から私に向かって骨だけの手が無数に伸びていた。ひっ、そう声を上げたのも束の間、骨の手たちは私の服を掴み、その闇に引きずり込もうとする。
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